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解き放て 18
「もしもし……?」
寝起きのいつもの洋の声だったのに安堵した。それにしても、昨夜はかなりの深酒だったのではと思う程の気怠さだな。でも洋のこの少し掠れた声も色っぽいな。
こうやって電話越しに寝起きの洋の声を聴くのは久しぶりだったので、それだけで煽られてしまう。
「丈……おはよう」
「やれやれ……まだ寝ていたのか」
「う……ん」
「洋? 聞いているのか……おいおい」
ソウルとは時差がないので、もう九時なのに、まだ眠っていたのか。
苦笑してしまった。
「……あっ……ごめん。分かるか。昨日は優也さんとワインを飲んで……いろいろあって、寝るのが遅くなってしまったんだ」
「いろいろ?」
洋はワインで酔いやすい体質だ。まさか酔っぱらって、とんでもないことをしたのではと、急に心配になった。それは昨夜、きっと……流兄さんに洋はソウルでモテるだろうと煽られたからだ。
「あっ……いや、何でもないし、何もないから」
「怪しいな、正直に話せ」
「う……ん、はぁ……怒られそうだ」
電話の向こうで、きっとシュンと項垂れているのだろう。やれやれ……今度は何を仕出かしたのか。
「まさか飲んだ後、どこかに出かけたのか」
「えっ、まさか。酔っぱらったら俺がどうなるか知っているだろう。とても出歩ける状況じゃなかったよ」
「じゃあ、何かしたのか」
「何かしたか……うん、確かにした」
洋の返事が意外な方向に向かっているような気がして、柄にもなく焦ってしまった。
「洋、正直に話すんだ。昨夜……一体何をした?」
「う……ごめん。俺……童……貞を卒業してしまった……その……的にだけど……」
「なっ、なんだって!!!」
語尾まで聞く余裕なく怒鳴ってしまった。とうとう案じていたことが起きてしまったのか。まさか……まさか洋が女性を抱くなんて……そんな!
自分は散々女性を抱いて来たくせに、そんなことは棚にあげてショックを受けてしまった。
「そっ、そうなのか……」
「うん、ごめん。丈がいる所ですればよかった……と後になって思ったんだ。だって優也さんと一緒にしたんだけど、優也さんはその後すぐにKaiに抱いてもらったから、ずるいな……って思って」
洋の話す内容が全く理解できない。頭に入ってこない。
優也さんと一緒に? ってなんだ。一緒に童貞を卒業したって? でも優也さんは女性を抱いた後、すぐにKaiくんと寝たってことなのか。
なんともおぞましい破廉恥な展開だ!
洋をひとりでソウルに行かせたのを激しく後悔してしまった。Kaiくんや優也さんのことを信頼していたのに、まさかそんな淫行をするとは!
「丈……丈聞いている? あの……やっぱり怒っているのか」
「……呆れている」
「え……」
「洋、過ぎたことを責めてもしょうがないが……一体どんな女性を抱いた?」
「ええっ?」
素っ頓狂な声を出す洋にイラっとしてしまった。その位恋人として聞く権利はあるだろう。それとも女性を抱いたら味をしめて、もう私には抱かれないつもりか。
「だからどんな女性を相手に、童貞を卒業したんだって聞いているんだ!」
「ええぇ……あぁ、もう丈、人の話はちゃんと最後まで聞けよな! もう……全く心外だぞ! それっ」
逆に洋の方が怒りだしてしまった。ということは……待てよ、何か私が誤解していたのか。
「丈、俺を抱くのはお前しかいないよ。それで……俺が抱いたのはマスターベーショングッズだよ。もう恥ずかしいこと何度も言わせんなよ」
「はぁ?」
今度は盛大に私が疑問符を浮かべてしまった。
「だ・か・ら、さっきも言っただろう!『疑似』だって! 分かるか。優也さんがくれたんだよ。だから一緒にトライしたってこと」
「なんだ。それならそうと……」
「くすっ、丈焦ったんだな。俺が女性に靡くとでも?」
「いや……」
最後まで話を聞かなかった私が悪いのだが、今の洋なら女性を抱けるほど精神的に逞しくなっているような気がしたから、焦ったのだ。
「俺さ……イクにはイッタけど、あんまり気持ちよくならなかった。やっぱり……丈のゴッドハンドが一番だな……って朝から変なこと言わせるよ。もう……」
私の指が……ゴッドハンドか。そんな風に思ってくれているなんて嬉しいものだ。その言葉で、すっかり気をよくしてしまうのだから、私も相当、現金な人間のようだ。
「なぁ……ひとりでするのは少し虚しいな。ちゃんと恋人がいるんだから、やっぱり一緒にするのがいいと思ったよ。だからいろんな意味でやってみてよかった。もうこれで童貞は卒業したことにするから、丈もいらぬ心配ばかりするなよ。俺はさ……お前がいいんだから」
そんな風に言いきってくれる洋は、やっぱり男らしくなったと思う。
こんな洋も嫌じゃない。
きっと……もっともっと私たちの関係はこの先変化していくのだろう。
時は流れていく。
その流れのなかで、人は変化していくものだ。
「洋は仕事を頑張れよ」
「ありがとう。丈も頑張ってくれ!」
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