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託す想い、集う人 9

 夕ちゃんと瓜二つの顔をした洋くんには、やはり感慨深いものを感じる。  それにしても丈さんが手に握りしめている白い衣類は何だろう?  さっきから、それが気になって仕方が無い。  もしかして……もしかしたら……あれは。 「雪くん、大丈夫?」 「あ、あぁ……」 「じゃあ、少しだけ、私が話してもいい? 私が伝え聞いた縁起物語を」 「もちろんだ。話しておやり」    春子ちゃんの口から『月影寺縁起』を聞いた時、いよいよ胸の高揚が止まらなくなった。 「……再び月影寺に三兄弟が健やかに育った時こそ、消えた皇子の願いは成就すると悟ったのです。月影寺は時代を超えて待ち続けました。皇子と三番目の弟が月明かりの中……影を並べる時を。重なるために出逢う人達を待ち焦がれていました。夜空に輝く月だけが、彼らの全てを知っているのです。重なる月の全てを」    春子ちゃんの口から最後まで伝承された時、丈さんがスッと立ち上がって白い衣類をマントのように纏った。 「あっ……」  僕の脳裏に鮮やかに浮かび上がってくるのは、病院の屋上で白衣を風にはためかせていた姿、結婚式の日、庭の垣根を跳び越えてやってきた海里先生の姿だった。  そう思ったのは、僕だけでない。桂人さんも白江さんも息を呑んでいた。  白い衣類は白衣だったのだ。左胸の白薔薇の刺繍は、春子がしたもので、あの白衣は僕からの開業祝いだった。  海里先生が医師としての職を全うするまで、着て下さったものだ。    海里先生が亡くなられ、出棺前に兄さまと交わした会話を思い出す。  …… 「兄さま、海里先生の亡骸に……あの、僕たちが贈った白衣をかけてあげましょうか」 「いや、白い燕尾服をかけるよ。僕たちが結婚式で着た」 「それは素敵です。兄さま……」 「雪也、海里さんは生前こう言っていたんだ。いつか由比ヶ浜の診療所が息を吹き返すかもとね。だから白衣はあのまま診療室の椅子にかけておこう」 「はい、そうします」  兄さまは僕の手をとって、真剣な眼差しで見つめてくれた。 「ユキ……お前が見届けて欲しい」 「何を言って? 兄さまも一緒です!」 「そうだね……」  ……   洋さんが連れてきた『月影寺』の丈さんは、海里先生が待っていた人だ。 「皆さんに宣言させて下さい。あなた方の大切な冬郷海里さんが愛した由比ヶ浜の診療所を、同じ外科医である私に、どうか継がせて下さい」  凜々しい低い声……  白衣姿の丈さんが、スッと頭を垂れた。 「あの、顔を上げて下さい。丈さん、あなたに任せます。海里先生の想いを汲んで、あの診療所に蘇らせて欲しいのです」 「なんて素敵なリレーなの!」 「雪也さん、良かったですね」    ついに……任せられる人が現れましたよ。兄さま!  天国から見ていらっしゃいますか。  

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