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花を咲かせる風 32

「はじめまして。電話で連絡した張矢です」 「あぁ建海寺の理事長から連絡をもらっています。特別にお見せ致しますので、さぁどうぞ」 「ありがとうございます」  流さん、ありがとうございます。  達哉さん、ありがとうございます。  翠さんと達哉さん……二人の縁にも感謝します。 「さて、いつ頃のものをご希望ですか」 「……1940年代のものをお願いします」 「随分と古いものを……戦前戦後ですね」 「はい……」 「アルバムではなく集合写真になりますが、いいですか」 「あ、はい……個人の名前は分かりますか」 「裏に書いてあります」  目の前にドサッと山積みにされた集合写真。  それを丈と丁寧に、1枚1枚確認していった。  月影寺で見た夕凪の写真が撮られた年は分かる。あの時の彼は……おそらく20代前半だ。そして俺が邂逅した青年は高校生だった。そこから青年が高校生活を送ったのは、1940年代になるのではと勝手に推測した。    彼の面影も、朧気だが覚えている。 それから『まこくん』という名前も手がかりになる。 「洋、見つかったか」 「ん……『まこ』という名前の子はいないな」 「そもそも『まこ』という名前ではないのかもな……それは愛称かも」 「あぁ、そうだな。女の子の名前のようだしな」 「いっそ顔から判断したらどうだ?」  古い校舎を背景に撮ったモノクロの写真。  皆、学ラン姿で……学帽を被っているので、同じように見える。 「うーん、思ったより難しいな」 「洋……もしかしたら……彼が信二郎の息子というのなら、『まこ』は『信』という漢字かもしれないぞ。この時代は親の名前を一文字もらうことも多かっただろう」 「丈、冴えているな!」  俺ひとりでは気付けないことを教えてもらえる。パートナーがいることの頼もしさを感じた。 「あ……この子……顔が似ている」  凜々しい顔の青年に目が留まった。  あの時、夕凪と話していた信二郎にも似た容貌だ。  見つけた!  確信を持てた。 「洋、すぐに名前を確かめよう」 「あぁ……養子に出されたと言っていたから、坂田ではないはずだ」  緊張しながら裏をめくり……青年の名前を確認した。 「えっ……」  |大鷹 信《おおたか まこと》 「大鷹って……」 「もしかして……あの……大鷹屋と関係があるのか」 「一体……どういうことだ? 宇治の山荘を取り壊したのも、確か大鷹屋だったよな」    心の中で……もしかしたらと芽生えていた淡い期待は……消滅した。  謎が……謎を呼ぶ。 「洋、一度、大鷹屋に行ってみないか」 「でも、どうやって……」 「今度は翠兄さんに聞いてみよう」 「わかった」 「それから洋のお父さんも……おそらくこの学校の卒業生のはずだ。調べてみよう」 「……分かった……父の年齢から推測すると高校時代はおそらく……」  浅岡信二。    はたして……俺の父の名をアルバムの中から見つけることが出来るのか。 **** 「父さん、お腹いっぱいだね」 「沢山食べたからね」 「うん、やっぱ、豆腐だけじゃ、満腹にならなかったよ。あー今度は焼き肉が食べたいな」 「ふふっ、やっぱりね。流に電話して……夕食は焼き肉にしてもらおう」 「やった!」  薙と来た道をふらふらと歩いていると、ふと見覚えのある場所を通り過ぎた。  あ、ここは……大鷹屋の代々の跡取りの住まいだ。  銀閣寺へ続く哲学の道の一角にある大きな門構え。大きな木の正門は僕の背丈の数倍もの高さがあり、その周りを竹林が囲んでいて、とても静かな雰囲気だ。   「父さん、どうしたの? 広い家だな。ここはお寺?」 「いや……個人の邸宅だよ」    そこに……ちりんとまた鈴の音が聞えた。  また邂逅だ。  今度は僕に何を見せる?  勝手口から……和装姿の青年が出て来た。  もう学生服ではないが、すぐに分かった。 「あっ……君は、まこくん」  青年には僕の声は聞こえない。ただ青年は凜々しい顔をしており、そのまま何かを決意したように一礼して家を出て行った。  ただの外出ではない気がした。  一体、どこへ――

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