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翠雨の後 43

 カーテンのない窓の向こうから、自然のアラームが鳴る。  竹藪を掻き分けて届く朝日に、今日も起こされる。  極上の目覚めだ。 「ん……」  私はゆっくり目を見開き、腕の中で眠る洋の寝顔を見つめた。  昨夜も、洋の身体の奥深い場所で繋がった。  その余韻を揺りかごに眠りに落ちたので、二人とも生まれたままの姿だった。  真珠のようにしっとり輝く洋の素肌をそっと撫でると、くすぐったそうに身動ぎをした。  そらから整った美しい顔を少し歪めて、布団の中に潜っていく。 「やれやれ、相変わらずだな」  低血圧な君の寝起きが悪い事は知り尽くしているので、私は裸のままシャワールームに向かった。  熱いシャワーを浴びると、水滴が肌に弾け飛び散った。  鏡に映る私は、洋と出逢った頃とたいして変わっていない。  いつもの流れで、ボディソープを泡立てたスポンジで、身体をゴシゴシと洗い出す。  その隙に自分の筋肉にそっと触れて、筋肉の付き具合を確かめる始末だ。  まだまだ余裕だ。  体力の有り余る肉体に、ほくそ笑む。  すると、向き会っている鏡に人影が映った。 「ははっ、丈はナルシストなのか」 「洋! 珍しいな、ひとりで起きられたのか」 「俺は子供じゃないよ」 「だが、私の洋だ」 「ふっ、涼が来ているから寝坊するわけにはいかないよ。なぁ丈、俺もシャワーを浴びたい。そっちにいってもいいか」 「もちろん」  広いタイル張りのバスルームだ。  何の問題もない。  洋もまだ一糸まとわぬ姿だった。 「来い」 「あっ」  抱き寄せた身体に、私の身体についた泡を擦り付けるように密着させた。 「わ!」  二人の男の子裸体が、シャワーの下で絡み合う。 「あ……おい、もう駄目だ」 「分かっている。綺麗に洗ってやるからじっとしていろ」 「全く! 丈は俺の世話を焼くのが好きだな」 「流兄さんに負けられないからな」 「いい勝負だよ」  洋の太腿に手を這わせ、そのまま股間部分も丁寧に洗ってやる。 「あ……あっ……」  何度抱いてもそこを弄られる時の羞恥心は消えないようで、洋は頬を染め上げ、目を瞑ってじっとしていた。 「大きくなってきたな」 「馬鹿、お前が触るからだ」 「昨日、出し足りなかったのでは? すっかり後ろだけでいけるようになったから」 「よせ、言うな」  洋は身を捩りつつも、股間を高まらせていく。  可愛い洋。  淫らで可愛い姿も、気高い姿も全部見せて欲しい。 「あ……あっ、あぁ」  洋はあっけなく精を放ってしまった。  私の右手に溢れた白濁の液体をペロッと舐めると、洋が真っ赤になった。 「丈!」 「ちゃんと出せて偉かったな」 「馬鹿! 朝から体力を使わせて」 「悪かった。今日の予定は?」 「ずっとここにいる。涼もいるし、寂しくはない」 「もう少しだ。今、由比ヶ浜の耐震測定をしてもらっているが、少し大がかりな工事が必要になるかもしれない」 「やっぱりそうか、古い建物だもな」  脱衣場で洋の身体をバスタオルに包んでやる。 「洋と早く一緒に仕事をしたいのに、焦ったいな」 「丈、焦るな。基礎をしっかりしておかないと長持ちしないぞ。俺たちの城になるのだろう? 由比ヶ浜の洋館は」 「洋の言葉は心強いな」 「お互いの目指す未来が、今は同じ場所にあるからさ」  バスローブをふわっと羽織る洋の背中には、天使の羽が生えているように見えた。  まるで初めて出逢ったあの日のように。  思わず目を擦ると、洋がふっと魅惑的に微笑んで振り返った。 「丈! 今度の休みには由比ヶ浜に行かないか。洋館の様子を見たいし、久しぶりに春の海に行きたい」 「約束しよう」 「ありがとう」  そしてまた私たちの一日が始まる。  うららかな春の日が。

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