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雲外蒼天 3

 【補足】  洋が猫を飼う話は、エブリスタというサイトの2スター特典『月影寺のクリスマス』で書いています。可愛らしい話なのでよかったら、どうぞ。 https://estar.jp/extra_novels/25758103 ****  丈を見送り部屋に戻ると、白猫が足下に擦り寄ってきた。  恥ずかしがり屋なのか、丈がいる時は姿を消していて、俺が一人になるといつもこんな風に自分の存在をアピールしてくる。 「なんだ、そこにいたのか」 「ニャア~」  丈がクリスマスに贈ってくれた白猫は、月光のように白い毛並みだったので、月からの贈り物だと思った。  月だけが俺たちの輪廻転生の全てを知っている。  だから子猫にも月の名を与えたかった。  この子猫は、俺たちの子供のような存在だからね。  丈にラテン系の言葉で月は『ルーナ』や『ルナ』だと教えてもらったので、音の響きから『ルナ』と名付けた。 「ん? ルナ、どうした?」 「ニャア、ニャア……」  ルナが玄関の扉を爪でカリカリと引っ掻いている。  どうやら外に遊びに行きたいようだ。 「よしよし、分かった。おいで!」  俺はルナを胸に抱いて、庭に出た。  月影寺にはとっておきの場所がある。竹藪の茂みに覆われた芝生の広場は、俺とルナの格好の秘密の遊び場になっていた。 「よーし、ルナ、自由にしていいぞ」 「ニャア!」  誰もいないのをいいことに、俺はここで連日思いっきり猫と戯れている。ルナのお腹に顔を近づけて、すんと息を吸うのも大好きだ。 「お前のここ……懐かしく感じる。あったかくて、いい匂いだな」  これは猫吸い呼ばれる、飼い主が猫の体に顔を埋めて息を吸う行為で、飼い主と猫との信頼関係があって初めて出来るものだ。  つまり俺とルナがそこまで仲良くなった証なのさ! 「かわいいルナ、大好きだ」 「にゃああん」  ……こんな場面、丈が見たら妬くかもな。(絶対妬く!)  芝生まみれになって気ままに遊んでいると、突然、涼とおばあさまがやってきたので驚いた。  昔の俺だったら逃げ出すシーンだ。  人にありのままの感情を見せるのには、人一倍警戒していたから。  でもこの二人は別だ。  俺の大好きなおばあさまと、弟のような従兄弟の涼。  二人になら、むしろ……ここまで明るくなれた俺の姿を見て貰いたい。  ありのままを曝け出して、安心して欲しい。  俺がここまで立ち直っていることを伝えたい。  だから、二人を呼んだ。 「おばあさま、こちらにいらして下さい。涼もおいで!」  そのまま二人と一緒に猫と戯れていたが、ふと疑問が沸いた。 「ところで、おばあさま、急にどうしたのですか。何か用事があったのでは?」 「あ、いけない! 車を待たせたままだったわ。洋ちゃん、一緒に来て」 「どこへ行くのです?」 「由比ヶ浜の別荘よ。そうだわ、涼ちゃんも一緒に行きましょうよ」 「え? 由比ヶ浜って何?」  涼はキョトンとしていた。    そうだ、涼にはまだ話せていなかったな。  ならば、これは絶好の機会だ。  由比ヶ浜は俺と涼の母の生誕の地で、幼い姉妹が何度も遊びに行った場所だと聞いている。 「涼、今から行こう! 涼にも縁がある場所なんだ」  双子のような涼と由比ヶ浜に行こう!  かつての双子の姉妹のように。  時代を駆け抜けて――

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