「おい、今から飲み会に付き合えよ」 同じ課の2歳上の先輩に強引に腕をグイッと掴まれて、一瞬ぞくっとする。 「えっ！俺は、もう帰ろうかと…」 こういう時、俺はやはり丈以外の奴に触られるのは苦手だと実感してしまう。 一方で丈になら何をされても大丈夫だった。 丈が強く俺を抱きしめてくれるのが好きだ。 俺の心を強く支えてくれるようで安心するから。 「お前が来ると女子どもが喜ぶからな。先輩命令だから来い！」 「……」 半ば強引に連れて行かれた飲み会。 ところがいざ来てみれば会社関係でなく単なる先輩の大学時代のサークル仲間の飲み会じゃないか。全く…仕事絡みかと思ったのに。 10人位の男女混合のテーブルで、すでに飲み会は始まっているらしく賑やかな雰囲気だった。 「おぅ！待たせたな！こいつ俺の部署の新入社員の崔加　洋(さいが　よう)って言うんだ。よろしくな。なっ噂通り女みたいに綺麗な奴だろう」 変な紹介をされ、皆の視線が集中して赤面してしまう。 「うわ！本当に綺麗な子ね～」 「へぇー女みたいだな。本当に～！」 居たたまれない気持ちで俯いていると、突然大きな音がした。 ガシャンッ 突然グラスの割れる音がしたので視線を向けると、一番奥の席に俺のことを見て唖然としている男がいた。 照明が暗くて良く見えなくて目を凝らすと、俺の心臓が止まった。 少し面持ちが変わって…あの頃のように極端な短髪でもないし、随分大人っぽくなっているけれども…あれは… 「安志(あんじ)…」 高校2年生の夏のあの騒動の後…屋上への踊り場で別れてからずっと会っていなかった俺の大事な幼馴染だ。 安志も目を見開いて唖然としている。 「おい！洋何をぼうっとしている。こっちこっち。こっちの席に座れよ」 「あっ、はい」 安志の所へ行きたいが、先輩に引っ張られるように…何故か女の子の間じゃなくて両隣男性の席に座らせられた。 「へぇ君が噂の洋くんなんだ。あいつから部署に女みたいに綺麗な奴が入社したって聞いて、 ずっと会いてぇって思っていたんだぜぇ」 「凄いなぁ。洋くん綺麗だなぁ…ほんとに男？肌すべすべだな～」 嫌悪感が走った。 両隣りからいつもの嫌な視線を感じ、逃げ帰りたい気分になる。 でも安志がいる。 せっかく再会できたんだから、少し話したい。 あの日あんな別れ方をしたから、ずっと気になっていたんだ… そんな気持ちが募っていく。