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つづき
「トアさん、こんなのに時間割いていたら小説にかける時間がどんどん減っちゃうじゃないですか。
食べたことのない料理の写真見て味のコメントするなんて無理でしょ?
この紫色の女の人とHなことしてないのにエロいこと書けるわけがないんですから、少々ズルしてもいいと思います。バレなければ問題なし」
「はあ……」
「それとですね、トアさんって書きたい小説のジャンルって?一度聞きたかったのです。
恋愛ものとかミステリ、エッセイ、ノンフィクション、あと時代ものもあるし。青春とか、官能小説とか!これはナシですね、お色気路線は苦手っぽい」
ジャンル?ジャンル?
なんということだ!書きたい書きたいと強く思っているだけで「何を」書きたいのかが全然定まっていないとは驚きだ!というよりもあきれ果てました、自分に。
「全然そこ考えていなかったようです」
「えっ?」
わかりますよ、ハルさん。「えっ」以外でてきませんよね。
僕自身、書きたいものがわかっていないのに、ある日突然神様が降りてくるとでも思っていたのだろうか。幼稚すぎます!
「まずはそこからですよね」
「『ディナーラッシュ』みたいな小説がいいな」
「あんなすごいの夢のまた夢です。僕のレベルは書く以前の問題だし」
「じゃあ、ここのお客さんを観察してストーリーを膨らませるっていうのはどうですか?」
「お客様ですか」
「たとえば、来るのは必ず金曜日だけど連れてくる女性が毎回違うお客さんいるじゃないですか。 昨日10卓に座った人」
10卓?10卓?あああ~あの身なりのいい歳の頃40代後半から50歳はじめな感じの。
ハルさんの言うように昨日一緒だった女性は若い人だった。その前は同じくらいの年代にみえたから奥さんなんだろうなとボンヤリ考えたことを思い出す。
「ああ、わかりました。わりとお洒落な人ですね」
「です、です。実は以前理さんにアドバイス貰いまして」
「アドバイス?」
「『あのお客さんは遊び馴れた人だろう、だいたい3~4人の女性をローテションで連れてくる。そして必ず頼むのはトリッパのトマト煮。座る席は空いていれば10卓を希望する。 あれはね、浮気がばれないための自衛手段だと思う』
そう言うわけですよ、理さんが」
「なぜそれが自衛に?」
「でしょ?だから僕も不思議に思ったので聞きました、何故ですかって。返ってきた答えはですね。
『この間食べたお店美味しかったわね。そう女性に言われたとする。彼女だか奥さん、愛人、どの人に言われても絶対嘘にならないのは「あ~SABUROか?トリッパ旨かったな、という答えだ。
共通の場所で同じ料理をオーダーしておけば、絶対に間違った答えにつながらないんだよ。
「あそこの寿司は旨いからな。え?お寿司なんて行ってないわよ!あなた誰と行ったの!どういうこと!」という火種が生まれることがない。
だからね、あのお客様には「先日はありがとうございました、とか、いつもありがとうございます、なんていうご挨拶はしない方がいい。今日はありがとう、また来てね的なものにしておかないと、浮気がばれるきっかけになるかもしれないから、そこ覚えておいて』
そう言われたんですよ、理さんに!」
恐るべし理さん。その観察力を僕にください!
「SABUROみたいな店を何件キープしてグルグル回っているんでしょうかね。
それ考えたらちょっとお洒落なショートができそうじゃないですか?」
「できるかな」
「遊び好きの男のデート風景。実はそれ浮気がばれないようにという、男なりの作戦。
色々なお店や料理を盛り込んで、彼女達とのエピソードをちょいちょい入れて……オチはどうしようかな。
『最近俺はよくわからなくなっている。彼女達との関係を継続するために店を開拓しているのか。それとも、旨いものを食べたいだけなのか。
SEXしたら眠くなる。
旨いものを食っても眠くなる。
結局のところ、生理的欲求の3者は供託しているってことなのかもしれない』
とか、そんなのどうでしょう」
「はうっ!」
「トアさん、どうしました?」
「少し原点に戻って考えなおしてみよう、そういう啓示が脳天に突き刺さったまでの事です」
「はあ……ですか。刺さったのですか」
ええ、ハルさん、ブッスリ、ズコンと容赦なく。僕はSABUROで飲食の道を究めるべきではないかと、そんな気さえしています。人様に読んでもらえるものを書ける気がしない。猛烈にしない!
自分の進路を考えなくてはいけません。僕は中学生ですか?高校生ですか?
はあぁぁ。
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余談ですが、修行中の店でこういうお客さんいました(それも一人じゃない)
奥さんも彼女も愛人も狙った女子も、全員連れてくる。
そして必ず頼む決まったメニュー。
大将と私は毎回知らん顔。
懐かしいww
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