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赤い髪の女 9

 ユウと名乗る赤い髪の女が屈託のない笑顔を私に向けてきたので、一瞬ドキっとしてしまった。見たこともない赤い髪、白い肌、黒く澄んだ眼。明るい笑顔。ヨウとは違う明るい笑顔が眩しすぎる。ふいにあの悲しみを押し殺したような切ない笑顔が脳裏に過る。  ヨウ……君は今何をしている?  一人で大丈夫か。  また心を冷やしてないか。  一刻も早くこの女性を連れて帰って、ヨウに会いたい。 **** 「これはこれは麗しの近衛隊の隊長殿!」  王宮の長い廊下で俺は呼び止められた。裏返ったような嫌味で甲高い声の持ち主は振り返らなくても分かる。王の外戚になるキチ一族の筆頭の男だ。 「今度の王はお前を可愛がってくれるか。はははっ。綺麗な顔は得よのぅ」  キチは嘗め回すように嫌悪感募る笑みを浮かべながら、俺に絡みだす。 「お前はその顔で前の王をたぶらかして操っていたのだろう。くっはははっ」 「キチ殿……いくら王家の外戚だからと言って、そのような侮辱をされるとは」 「そうか。だが満更嘘でもあるまい。お前の躰にその証拠が残っているんじゃないのか。愛撫の痕がたっぷりとなっ!ははっ!嘘じゃないならこの場で衣を脱いで潔白を証明せよ!」 「なっ」  会う度に同じようなことを言われ蔑まれる。そしてあの王に無理矢理愛撫され続けた日々が、今も消えないことを痛感する。  悔しい…… 「それ以上言ってはなりませぬ。あなた様は今はもう力がないお方。前王はすでに流刑先で亡くなられています。今の王の血統には、あなた様では敵いません」 「なっ!お前は近衛隊の分際でよくもぬけぬけと。あの少年王を今度はお前の方が抱いたのか。抱かれる方から抱く側に転換か」 「……いい加減にした方が身のためです」 「そうかな~あの王様がいなくなれば、天下は私のものになるのだよ。口に気を付けたほうがいいぞ。近衛隊長!」 「そんなことは絶対にありません!させません!」 「まぁいい。その暁にはお前は俺の専属の小姓にしてやるからな。くくくっ『性奴隷』って奴だ」 「…」  すれ違い様に、浴びせられる侮辱の言葉。やり過ごすだけでもかなりのエネルギーだ。もしも……王様にもしものことがあったら、次の王位継承者はあいつになってしまう。その先の自分の身の行く末が見えてくる。 「性奴隷……」  先ほど言われた言葉が頭にこびりついて離れない。  ジョウ……無事着いたか。帰りはいつになる?  俺の心は、こんなことでぐらつくほど脆くなってしまった。

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