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その後の話 『一枝の春』4

   ギシッギシッと寝台が揺れる度に枕元に置いた梅の花弁が崩れ、白い敷布にはらはらと広がって行く。俺の髪にもその花弁が絡まり紅梅の香が甘酸っぱく広がっては、俺をもどかしいほど切ない気持ちへと誘っていく。 「ふっ……ヨウ……お前、意外と花が似合うな」 「ば……馬鹿、言うな!」  ジョウの荒ぶるものをすべて受け入れ、ジョウの動きに合わせ揺れていく躰。もうジョウだけだ。ジョウだけにしか許さないこの躰だ。それを俺は知っている。望んでいる。永遠にそうありたいと切に願っている。 「あぁ……もうっ」 「お前も共に……」  ジョウの手が俺のものをやんわりと包み込み次第に強弱をつけて扱き出して、共に高まることをを誘ってくる。 「あ……あ…」  ここは旅宿の離れの部屋で、他に客がいないのをよいことに、今日のジョウはいつもより高い所へ上りつめることを誘って来ているのを感じて、俺の胸のうちもかっと熱くなる。  お前は俺なんかのことを、こんなにも深く求めてくれるのだな。募る想いは俺も同じさ。だから同じように俺もジョウの求めに積極的に応えていくだけだ。  共に上りつめた先の絶頂で、二人で共に一気に想いを弾けさせた。 「はぁはぁ……」  肩で息を切らし、途端に脱力していく。心も躰もすべてジョウに明け渡すせいなのか……どんな戦いよりも体力を使うのが、この営みだ。  それにしても外は雪が降り積もる寒さなのに、この部屋はなんと暑いことか。二人の吐息と汗に梅の香りが混じり、何とも言えない官能的な空間だった。 「ヨウ、風呂に入ろうか」 「あぁ……汗で濡れたしな」  部屋の外には先ほどから気づいてはいたが、白い雪が降り積もる庭先に、湯気の立ち込める野営の露天風呂があった。その白濁の湯に躰を浸すと生き返るように心地良かった。 「ふぅ……これは良い湯だな」 「だが狭いな。男二人で入るには」 「ははっ、もっとこっちへ来い」  ジョウの胸に背中をつけるようにもたれさせらたので、恥ずかしくなってしまう。背後からジョウの腕が腰に回り抱きしめられる。 「んっ……」  こんな風に誰かの胸に躰を預けることに俺は慣れていないのだ。そんな戸惑う俺の首筋に、ジョウは顔を埋め切なげに訴えて来た。 「ヨウ……帰りたくないな。このまま此処にいたいよ」 「ジョウ……そうだな。だがそれは叶わないことだ」 「分かっているさ」 「また王宮へ戻れば……忙しない生活が待っている。俺が近衛隊長をやっている限り、俺の命は王様のものでもあるのだ。死と紙一重の生活だ」  不吉なことを言ってしまったと後悔した。だが本当のことだった。一国の王を守る近衛隊長として、我が身を差し出しても、王の命をお守りするのが使命だ。だから俺はずっと奪われることはあっても、何かを積極的に手に入れようと思ったことはなかった。清廉潔白だった我が父のように生きたかったのかもしれない。  だが俺は奪われ過ぎた。  躰も心も身勝手な欲求によって弄ばれ続けたことにより、生への興味をすっかり失って、暗黒へ落ちてもがいていたのだ。そんな俺の前に一筋の希望の光のように現れたジョウだけは欲しかった。ジョウにだけはこの身を差し出したかった。 「その通りだ、ヨウの命が王様のものであることは承知している。私も王様の侍医をしている限り、王様の命と共に果てる覚悟を持っているのと同じだ」 「ジョウ……それでも……俺はジョウだけは欲しい」 「あぁそうだな。私にとってヨウは一枝の春のような相手だ。ヨウの冷え切った心にいつも春をあげたかった。だから私はいつもヨウを抱く。私が抱けばヨウは春の日差しのように暖かくなっていくだろう」  ふと横を見れば、庭に咲く梅の枝には、まだ沢山の小さな蕾がついていた。降り積もる雪の重みに耐えしっかりと。今日は咲かなくても明日は咲くかもしれぬ。先のことは分からないが、未来は明るいと信じたい。 「そうだ、その通りだ。お互い差し出せるものは、この躰だけ。お前から贈られた一枝の春はしかと届いたぞ」 「それでは、春は届いたのだな」 「あぁ存分に……満たされた」 「暫く我慢できるか」 「暫くなら……」 「ではまた来よう。ここへ」  しんしんと降り積もる雪の中……ジョウからの温かい口づけが降って来る。  一枝の春は、俺達の躰も心も包み込む、温かい贈り物となった。 『一枝の春』了 **** 志生帆海です。『悲しい月』のSSはいかがでしたか。 今までに書いたSSとつながって行くように……続編のような気持ちで書いてみました。 Rシーンも多めに盛り込んで!でもRだけで終わらない……そんな話を書きたくて日々精進中です。 これにて『悲しい月』の本編&番外編共に終了です。 ここまで読んでくださってありがとうございました。 また機会があればその後の二人を描いてみたいです。

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