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春の虹 ~ヨウの想い~
静かに拒否された接吻だった。
ジョウの私邸を後にした俺は、どこをどう馬で走ったのか覚えていない。
ただ風を斬る度に新緑の薫りが俺の鼻をつき、むせかえるような想いだけが込み上げてきた。
馬を下り誰にも見つからない木陰で、乱れた呼吸を整えた。
ただ真っ直ぐに、颯爽と生きたいだけなのに俺の心は渦巻いている。
****
ジョウの元から戻った後は、近衛隊を鍛錬し副隊長と護衛の打ち合わせをし、夜更け過ぎにやっと自分の部屋に戻って来た。
兵営の内部、士官兵舎の上階にある月明かりも届かない薄暗い俺の部屋。
いつもは心地良いはずの暗闇が、今日は何故だか怖い。
蝋燭の灯りが揺らめく中、汗ばんだ衣を着替える。
そんな時にいつも目につくのは、身体から消えなかった無数の爪の痕。
刀傷ならばどんなに良かったことか…
前王の深い愛撫の痕が残る俺の身体を、お前に嫌がられないだろうか…
いつか触れてもらえるのだろうか…不安ばかりが増す夜だ。
少しの不安が俺を制してしまうのだ。
離された口付けを、俺の方から求められないのは、このせいだ!
あの暖かい唇でこの傷に触れてもらえたら、凍ったように冷たい俺の身体も溶けていくのだろうか。
身体に刻まれてしまった古傷を、指でそっと触れると悲しく辛い出来事が蘇る。
心を殺し受け入れざる得なかった前王との情事。
声にならない悲鳴をあげ続けた俺。
性行為の後、一人部屋にボロボロの状態で捨てられていた…いつもいつも。
躰の傷が癒える前に、また新たな傷を付けられ…その繰り返しだった。
ゾクッ
急に寒気を覚えた。
「寒い…」
こんな日はジョウのもとで眠りにつけたら、どんなに心地よいだろう。
こんな日は、またあの悪い夢を見てしまうから気を付けねば。
壁にもたれ目を閉じて、ジョウの優しい眼差しと温かい手を思い出していく。
そしてあの別れ際の口づけを…
俺の身体から欲情が次々と生まれ…どうしたらいいのか持て余しているのだ。
どうかその手を止めないで、その先まで来て欲しい。
俺はお前に触れてもらいたいのだ、お前に欲してもらいたい。
俺の中のジョウが、俺の身体に優しく触れ、俺のモノを扱き中に溶け込んでいく。
そう…俺の凍えた身体を溶かしていってくれるのだ。
身体の中心が熱く固くなり、そのまま解放された。
閉じた目から、一筋の涙が流れるのと同時に。
ジョウ…お前は今頃何をしているのか。
疼いて眠れない夜を、俺はあれから幾夜過ごしたことか。
お前を想いながらこうやってやり過ごすことしか、今の俺には出来ないのだから。
「早く俺に触れて…俺を求めてくれ…」
俺は今夜も触れてもらえなかった肌を自分できつく抱きしめ、眠りにつく…
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