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青天の霹靂
「――ねぇ、蒼城くん…どうか、あの子を自由にしてやって…」
蒼城家では、静流の母が頭を畳につけんばかりに下げていた。
「一方的な言い方しないで下さい、何も俺が一方的につきまとってるわけじゃ…」
紫苑も反論する。
「あの子には婚約者もいます、あなたから離れてくれればあの子も…」
――何だよそれ。
「俺に・・俺のほうからしず捨てろってゆーのかよ!!」
我慢していたが、遂にキレてしまった。盗み聞きしていた紫雲と紫龍が慌てて入ってきて落ち着かせる。
「あなたたち二人で築く未来はありますか?この国ではまだまだあなたたちのような人間は受け入れられません。あの子のことを想う気持ちがあるなら…」
涙ながらの訴えを聞いていて、紫龍は思った。
――卑怯だわ、おばさま…そんなこと言ったらこの子はホントに――
「紫苑ちゃん…」
静流の母が去り、完全に毒気を抜かれてしまってうなだれる紫苑に、紫龍が駆け寄る。
「龍ちゃん…やっぱそーなんかな」
独り言のようにぽつりと紫苑がつぶやく。
「別に結婚して子供作って平凡な家庭築くだけが幸せじゃない…」
「もし」
顔を上げた紫苑は、なんとも言えない表情だ。
「もし…しずはそれを望んでたとしたら?…考えてみりゃあいつ、俺と出会ってロクなことなかったんじゃねぇの?俺もうあいつの人生ひっかきまわしまくってさ…」
その夜静流は不安で寝つけなかった。
紫苑に来て欲しい、心細くてたまらない。この不安を笑い飛ばして欲しいのに――。
翌日、紫苑は静流と出会った。なんとなく会うのが怖くて、昨夜は部屋に行けなかった。
「しず…」
恐る恐る声をかけると、静流は溜息をつきながら言った。
「昨夜、来てくれなかったね…どうして?」
ムカつく。
「てっ…てめーが来いって言わねえからだろ!言葉で言わなきゃわかんねーんだよ俺は、バカだから!!」
一気にまくし立て、一息ついて紫苑はまたニヤリと笑って言った。
「俺はまた、キレイな婚約者の方でも連れこんでんのかと思ってエンリョしてたんだけどなっ」
「悪かったよ」
もう付き合いきれないとでも言いたいように、素っ気無い一言で会話は強制的に打ち切られ、静流は行ってしまった。
助けて欲しいのに、救って欲しいのに。なぜうまく、伝わらない――?
最近の紫苑の態度に、静流は辟易していた。
高校の時のかわいい意地悪とは明らかに異質である。
そこで、思いきり大人になってあしらうしかないのだ。
まともに言い返すのも、馬鹿馬鹿しい。
静流の自分を見る目に、紫苑は耐えられなかった。
タチの悪い子供を見るように、上から見下す。昔からガキ扱いのままだ。高校のときは確かに子供だったので気にもならなかったが、現在着実に内面の成長を遂げている紫苑には、耐え難くなっていた。
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