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第1話

甘いものが苦手だった。 手作りの誕生日のケーキは、無理矢理口の中に押し込んだ。 おいしい、おいしい、と笑って食べたら彼女はとても喜んでくれた。 その日の夜はいつまでたっても吐き気が止まらなくて、夜中にトイレで吐いた。 涙で滲んだ目をぎゅっと瞑ると、彼女の嬉しそうな顔が浮かんでは消えた。 俺は今年の春、高校二年生になった。 いつもの制服に袖を通すと少し短く感じた。 この一年でまた身長が伸びて、もう180センチにもなる。 目立つのが嫌だからもう成長なんかしなくていいのに。 俺はため息をひとつついて自室を出た。 キッチンへ入ると母さんが俺の弁当を包んでいた。 父さんはリビングのソファで新聞を読んでいる。 「那月くん、おはよう」 「おはよう」 「おー、那月、おはよう」 いつも通りの朝。 席に座って朝ごはんをみんな揃って食べる。 「那月くん、今年は何クラスだったっけ?」 「Cだよ、母さん。これ言うの三回目」 苦笑しながら答えると、父さんがくすくす笑う。 「母さんのその忘れっぽさは今日も変わらないな」 「えー…お父さん、酷い」 「俺はいくらでも答えるけど」 「もう、那月くんまでそんなこと言って」 母さんがこの家に来たのは俺が十歳のときだ。 俺を産んだ母さんが病気で亡くなってから、父子家庭だったうちに彼女は来てくれた。 コブ付きの父さんを選んでくれるなんて、それだけでも有り難いのに、彼女は俺に対しても本当の母親のように接してくれる。 母さんが来てからこの家はとても明るくなった。 「ごちそうさま。そろそろ行くよ」 「お粗末さま。はい、那月くんこれ」 朝食を済ませて席を立つと、母さんがお弁当と小さなクッキーが入った袋を差出す。 俺はそれを受け取って母さんに微笑んだ。 「ありがとう。行ってきます」 進級、というのはあまり好きじゃない。 やっと馴染んできたと思った頃クラス替えになって、また慣れなきゃいけないから。 残念ながら今回は前のクラスで仲良くしてた奴は誰もいない。 これからの苦労を思うと足取りが重くなった。 ふー、と深呼吸すると春の匂いで肺がいっぱいになる。 身長を気にして丸め気味な背を伸ばして、俺は学校に向かった。

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