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【バレンタインSS】甘い、甘い
「ねえ蓮ちゃん?今日は何の日?」
ぼーっとスマホをいじっていると、優が横から覗き込んで少し拗ねた様な顔でそう聞いてきた。
「知らない。なんか特別な日だっけ?」
特に今日が何の日なのか思い当たらなかった俺は、スマホの画面を見たままそう答えた。
「周り見て!ほら!女の子達が手に持ってるのは何?ほら!秋川があそこで貰ってるよ!」
優が指さす方向を見ると、秋川がクラスの女子に何か透明な包み貰っていて、顔を赤くしたり青くしたりしながら狼狽えていた。その周りでは他の生徒がその女子と秋川を囃し立てている。よく周りを見渡せば、そこら中に何かしらの小さな包みや箱を持っている生徒がいて、透けて見えるその中身を見ればチョコレートやその色をした菓子ばかりだった。その様子を見てはっとしてカレンダーを確認すれば、今日は2月14日だった。
「......バレンタインか。悪い、何も持ってねえ。」
優と付き合い始めて初めてのバレンタインだというのに、俺は完全にそのことを失念していた。今まで彼女がいても貰うばかりで何もしてこなかった日で、すっかりその存在を覚えていなかったのだ。
「むう。俺はちゃんとあるのに......忘れちゃった蓮ちゃんにはあげない。」
優はむすっとして俺から顔を背けた。どうしたものかと考えていると、ふとあることを思い立ち俺は席を立った。
ロッカーを開けると、案の定チョコがいくつか入っていて、その中から既製品のものを選び、それを手に取って教室へ戻った。
「優。おい、優。」
なかなか振り向こうとしない優の肩を軽く掴んでこちらへと向き直させる。
「なに。」
未だ不機嫌そうな様子で俺から目を逸らしたまま優は答えた。
「ちょっと来いよ。空き教室どこだっけ?」
「3組の隣。」
「分かった。ほら、来いよ。」
俺は優の腕を掴んで教室を出た。優はとぼとぼと乗り気ではない様子で歩いてきたが、頬は少し紅潮し、顔に期待の色を浮かべていた。教室に入ると俺は扉から死角になる位置に優を立たせた。
「いきなり、何。」
優は俺の顔を訝しげに見遣る。俺は何も答えないまま持ってきたチョコレートを一つ口に含んでキスをした。
「......っん............んぅ......」
軽く下唇を舐めてやると優は体をピクッと跳ねさせ、唇が少し開いた。俺はその隙に舌を口内へと捻じ込み、口に含んでいたチョコレートを優の口へと移し、ゆっくりと唇を離した。
「......チョコ?」
優は少し驚いたような顔をして俺を見る。
「そうだけど?バレンタイン、だろ?」
「うん......ありがとう。美味しい。」
優は少し俯いて頬を赤らめ、口元を緩ませながらそう言った。
「じゃあ、もう一個食う?」
ぽい、とチョコレートをもう一粒口の中に放り込み、優の顔を下から覗き込んで聞く。優は恥ずかしそうにしたまま小さく頷いた。
「なに恥ずかしそうにしてんの?キスなんかいつでもするだろ。」
少しだけ口の中でチョコレートを溶かしながらそう聞くと、優は少し赤みの引きかけていた顔をまた赤らめて答えた。
「……口移しって、慣れないし、なんか恥ずかしい。」
そんな初なことを言う優があまりにも可愛くて、俺は優の顔を半ば無理矢理上に向かせ、キスをした。俺は優の口にチョコレートを移してからも唇を離すことはせず、チョコレートは優の口と俺の口の中を行ったり来たりしていた。そのうちチョコレートが溶けきっても舌を絡め続ける長いキスは、チョコレート味の、甘い、甘いキスだった。
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一か月遅れてのバレンタインSSでした・・・?!短くてすみません。もうあと10日でホワイトデーなのに今更バレンタイン・・・とは思いつつも先月からずっと書きたいなーと思っていたので書きました。猫の日SSも書きたいのだけれど・・・書けるかなあw
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