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Dawning Kiss side A 5 ※

縺れた意識の中、積み重ねられる波に飲まれて、僕は一番深いところへと沈み込んでいく。 「 ──ああっ、イく、ああ……ッ」 中から生まれる強い収縮に翻弄されて、何度も身体が痙攣する。奥で熱が放たれるのを感じた。 海の底深く。誰の目も届かないところで、僕達はずるずると長引く余韻に揺蕩う。 呼吸を整えながら、ゆっくりと目を開ける。 鳶色の瞳に映し出された僕は、亡霊のように虚ろな顔をしていた。 シャワーを浴び直してベッドに戻った僕たちは、横たわって緩く抱き合っていた。 どれほどの時間が経ったのだろう。もしかすると、夜明けが近いのかもしれない。 「──アスカ」 名前を呼ばれて顔を上げると、ユウが僕をじっと見つめていた。 「どうしたの?」 いつになく神妙な面持ちにそう問い掛ければ、形のよい唇がそっと動く。 「契約を交わした。明日からだ」 「……わかった。初仕事だね」 ユウは何も言わずに僕の頭を優しく撫でてくれた。 誰かと四日間を過ごすこと。それが、ユウから僕に与えられる仕事だ。 けれど、それを始めるまでには時間が必要だった。 僕たちはこの日を待っていた。僕が成人して、自分で責任を取ることのできる年齢になる日を。 この仕事をすることで何かがあったとしても、これでユウに迷惑を掛けずに済むだろう。 そっと息を吐きながら、僕は思い出す。 この半年間何度も自問した、ユウと初めて身体を繋いだときに口にした言葉を。 ──誰かを救える人間になれば、僕は赦されるだろうか。 僕を見つめる瞳は、何かを訴えるように微かに揺らめく。 クリスタルガラスのように光を集めて煌めく、サキと同じ瞳だ。 「大丈夫だよ、ユウ。心配いらない」 そう言って、そっと顔を近づけて口づける。 触れるだけのキスは、いつものように安らかな眠りを誘う。 「今日はゆっくり休めばいい」 低く響く穏やかな声に頷いて、窓を見上げた。 厚いカーテンの隙間を縫うように薄明かりが射し込む。 黎明はすぐそこに来ていた。 "Dawing Kiss side A" end

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