46 / 134
第46話
夏休み後半になって、晴斗は九尾と一緒に東京に戻ってきた。
九尾に出会ってから半月以上経過していたが、彼は少しずつ明るさを取り戻していた。もともと上品でおとなしい性格だから、大声で笑ったり大きなリアクションを取ったりはしないけど、出会ったばかりの頃と比べると明らかに表情が豊かになってきた。
この時代への興味も少しずつ湧いてきているようだ。
「晴斗、今日はどこに行くんだ?」
晴斗がどこかへ出かける時、九尾はほぼ一緒についてくる。すぐ近くのコンビニに行く場合はその限りではないが、ちょっと遠出をする時、電車やバスに乗って移動する時は、必ず「つれて行ってくれ」とお願いされるのだ。
夏休み中の課題を提出する際も、
「今日は大学にレポート出しに行くだけだから、九尾は留守番しててくれ」
「大学?」
「専門的なことを勉強する場所だよ。ここから歩いて行けるし、出したらすぐ帰って来るからさ。別に面白くもないし、暑いから家で待ってた方がいいぜ」
そう言って靴を履こうとしたら、九尾の耳が少し垂れ下がった。
「……私がついて行ったら邪魔になるか?」
「い、いや、そんなことないけどさ。でも行って帰ってくるだけだから、暑い中わざわざ出歩かなくてもいいと思うぞ?」
「それくらい平気だ。邪魔にならないならついて行きたい。晴斗が通っている大学、私も見てみたいし」
「いや~……でも本当に面白くないぞ? 文化祭の時期だったら別だけど、今は夏休み中で講義も何もやってないしさ……」
「……やはりダメだろうか。どうしてもダメなら留守番しているが……」
しょんぼりと肩を落とされてしまったので、晴斗は慌てて言った。
「あー、わかったよ! じゃあ一緒に行こう。でも、行ったらすぐ帰ってくるからな?」
「ああ、もちろん」
嬉しそうに耳と尻尾を引っ込め、靴を履く九尾。
ともだちにシェアしよう!