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第51話
――まあ、あんなタヌキにずっと怒っててもしょうがないしな……。
三尾は晴斗の部屋を見回し、
「狭い場所だねぇ。こんなところでよく生活できるな」
……などと言っている。九尾の前じゃなければぶっ飛ばしているところだが、ここは大人の余裕を見せなければ。
「……ていうか、なんなんだ、アイツは。九尾、親しい妖怪はいないって言ってなかったか?」
「昔、半年程住んでいた山里で顔見知りになったんだ。でも、私がその山里を離れてからは一度も会ってなかったから……今まで存在自体も忘れていた」
「……あ、そう。まあ、その程度だったら『親しい』とは言わねぇか。……で? そんなタヌキがなんであんなところにいたんだよ?」
「それはわからないけど……。千年も生きていれば、住処を変えることもあるんだと思う」
「……!」
晴斗は三尾に目をやった。
童顔の少年にしか見えないけれど、あれでも彼は平安時代からずっと生きて続けているのだ。時代と共に人も環境も変わっていくのに、自分だけは変わることなく生きていかなければならなかったのだ。もしかしたら、封印されていなかった分、彼の方が九尾より苦労しているかもしれない。千年ぶりに妖怪仲間に再会したら、そりゃあ嬉しくもなるはずだ。
――ま、話くらいはさせてやるか……。
晴斗はやんわりと九尾の尻尾を解き、穏やかな口調で言った。
「俺、夕方まで出かけてくるよ。九尾はあのタヌキの話し相手になってやりな」
「えっ? でも……」
「俺がいたら話しにくいこともあるだろ? 適当にぶらぶらしてくるから、お前は気にしなくていいぞ」
財布とスマホだけ持って玄関で靴を履いていたら、九尾が軽く腕を掴んできた。
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