51 / 134

第51話

 ――まあ、あんなタヌキにずっと怒っててもしょうがないしな……。  三尾は晴斗の部屋を見回し、 「狭い場所だねぇ。こんなところでよく生活できるな」  ……などと言っている。九尾の前じゃなければぶっ飛ばしているところだが、ここは大人の余裕を見せなければ。 「……ていうか、なんなんだ、アイツは。九尾、親しい妖怪はいないって言ってなかったか?」 「昔、半年程住んでいた山里で顔見知りになったんだ。でも、私がその山里を離れてからは一度も会ってなかったから……今まで存在自体も忘れていた」 「……あ、そう。まあ、その程度だったら『親しい』とは言わねぇか。……で? そんなタヌキがなんであんなところにいたんだよ?」 「それはわからないけど……。千年も生きていれば、住処を変えることもあるんだと思う」 「……!」  晴斗は三尾に目をやった。  童顔の少年にしか見えないけれど、あれでも彼は平安時代からずっと生きて続けているのだ。時代と共に人も環境も変わっていくのに、自分だけは変わることなく生きていかなければならなかったのだ。もしかしたら、封印されていなかった分、彼の方が九尾より苦労しているかもしれない。千年ぶりに妖怪仲間に再会したら、そりゃあ嬉しくもなるはずだ。  ――ま、話くらいはさせてやるか……。  晴斗はやんわりと九尾の尻尾を解き、穏やかな口調で言った。 「俺、夕方まで出かけてくるよ。九尾はあのタヌキの話し相手になってやりな」 「えっ? でも……」 「俺がいたら話しにくいこともあるだろ? 適当にぶらぶらしてくるから、お前は気にしなくていいぞ」  財布とスマホだけ持って玄関で靴を履いていたら、九尾が軽く腕を掴んできた。

ともだちにシェアしよう!