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第82話

 半分程お茶を飲んだところで、ようやく小さく息を吐く。 「三尾は何か関係があるって疑ってるみたいだけど、残念ながら俺は、晴明さんとは全くの無関係だよ。陰陽術のことも知らないし、九尾に出会うまで妖怪とも縁もゆかりもなかった。カンは多少鋭かったが、それくらいだ」 「わかっている。晴斗は晴明とは違う。晴明はここまで細かく世話を焼いてくれなかった」  なおも何か言いたげな三尾を手で制し、九尾は言った。 「ただ……気を悪くしないで欲しいんだが、時々――本当に時々、あなたから晴明の面影を感じることがあるんだ。あなたが封印を解いてくれた時も、一瞬晴明と見間違えた」 「ああ……そう言えばそうだったな……」 「でも、あなたはあくまで晴斗だ。仮に晴明と何か関係があったとしても、あなたと晴明は別人だ。それはちゃんと理解している。晴明は……もう、どこにもいないから……」 「…………」  表情を翳らせ、目を伏せる九尾。そんな彼を見ていたら、少し胸が痛くなってきた。  ――そうだよな……できることなら、もう一度会って話をしたいよな……。  こういう時だけは、「俺が晴明さんだったらよかったのに」と思わんでもない。誰かに「似ている」と言われるのはあまり好きではないけれど、晴明とキチンと話ができさえすれば、九尾も晴れて気持ちの整理がつくのだ。それが不可能だから、せめて玉藻前に真相を窺おうとしているだけで……。  ――辛いな、お互い……。  この想いが解決することはない。死んだ人間が蘇ることはないし、晴斗は晴明にはなれない。だからきっと俺たちは、これからもままならない想いを抱えながら生きていくのだろう。 「ま、九尾ちゃんがそういうなら、僕もこれ以上は気にしないけどさ」  と、三尾がお茶をすすりながらスイカを齧った。 「まあとにかく、玉藻前と会う時は注意した方がいいね。念のため僕もついて行くけど、どこまでフォローできるかわからないからさ」 「ありがとう、三尾。気を付けるよ」  九尾が軽く微笑む。  妖怪対策ねぇ……とあれこれ考えながら、晴斗はスマホを弄った。

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