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第1話 お前ヘタレすぎだろ、雅人君
「おい雅人、なんで取引先の顧客相手に無言だったんだよ」
昼飯時、俺は後輩の井伊垣雅人と一緒に昼食を食べていた。
近くのコンビニで買ったハムサンドを噛りながら、やや苛つきを抑えながら聞いた。
「だっだって、先輩! あのお客さん顔が怖いんですもん! 前職は絶対ヤのつく職業ですよ!」
「お前な…いくら顔が怖くても顧客に対してそれは無いだろう…」
「うう〜」
「全くお前はいつもいつも。昨日もそうだ顧客の前で居眠りこきやがって。どうせゲームでもして夜ふかししてたんだろっ」
「いえ、昨日のは、その…」
「ったく、ヘタレ」
「そ、そんなこと言わないで下さいよ〜 先輩が怒っている理由はわかりますけど〜」
「ああっ?」
「怖いっ!」
「お前に分かってたまるかよ…」
雅人がヘタレなのはいつものことで今更なのだが、じゃあなぜ俺が苛ついているかというと
それはひとえに彼女と別れたためだった。
苛つきをぶつけるのはお門違いだと分かっていても苛ついてしまうものは仕方ない。
コイツがわりい。
「昨日はその、先輩の慰めになるかなあと思っていろいろ考えてたら、夜、遅くなっちゃって…」
「ふーん」
俺のために、ねえ。
「で、なにか浮かんだのか?」
「はい! 先輩と一緒に海にでも行きたいなと」
「男二人でか」
「そ、そこで女の子捕まえればいいじゃないですか! きっといい出会いがありますよ!」
「うーん、お前と海かぁ」
まあ、こいつなりに考えてくれたんだろう。
悪いやつじゃねえんだよなぁ、こいつ。
こいつなりに頑張ってる。
いつも俺や上司に怒られても…
「まあ…いいけど」
「やったあ! 先輩と海〜海〜」
「なんで嬉しそうなんだよ。いわば慰め会だろうが、俺の」
「あっ、す、すみません」
「ったく じゃ仕事だな」
「はいっ!」
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