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陽だまりのような人2

これから帝の※鷹狩が催行される。 (※飼いならした鷹に、兎や鳥などの小動物を捕らえさせる遊び。) 俺も帝に命令されたので、狩衣に着替え随行する仕度を整えていた。 「洋月の君も参加するのか?」 部屋で仕度をしていると御簾越しに、明るい声がかかる。 この声は、陽だまりのような人、丈の中将だ。 「あぁ…帝の命令だからな。丈の中将もか?」 「一緒だよ」 嬉しい。憂鬱な帝の随行も丈の中将が一緒なら一気に明るいものへと変わる! 「洋月の君、じゃあ向こうでは共に行動しよう」 「ああ!もちろん!」 **** 鷹狩りのために、丈の中将と山科の山野を駆け巡った。 「洋月の君の鷹は賢いな、もう兎を捉えたなんて」 「そっそんなことないよ、丈の中将の鷹の方が獲物を沢山捕らえているよ」 褒められると嬉しい。 気分も高揚してきて、つい二人で随分と山奥まで入り込んでしまった。 俺は物心ついたときには母も亡くなっていて、母方の祖母に育てられたので、男らしい遊びもあまりせず、部屋に閉じこもって、書物を読んだり碁を打ったりする日々だった。だからこういう経験もあまりない。そのせいか慣れぬ野山を歩き回り、すっかり疲れてしまった。 情けない…歩くたびに息が切れてしまう。 「どうした?疲れたのか?」 滴る汗を拭いながら、恥ずかしい気持ちが込み上げる。 「少しだけ、俺は男なのに、この位のことで息があがって恥ずかしいよ」 そう答えると、丈の中将は心配そうな目をして顔を覗き込んでくる。 そして布を取り出し、優しい手つきで俺の額の汗を拭ってくれたんだ。 慣れない優しい手つきにどう反応していいものか、躰がびくっと震えてしまう。 「あっ…ごめん。驚かしたか?額の汗がひどいから」 「うっ…うん、ありがとう」 暖かい手なんだなと、じんわりとまた心が温かくなってくる。 「こんな風に洋月の君と出かけるは久しぶりで、なんだか楽しいよ」 屈託のない笑顔を向けられると知りたくなる。 「…丈の中将は…どうして俺にこんなに優しくしてくれる?」 「えっ!嫌か?なんか洋月の君は放っていけないんだよ。妹の無礼もあるし…」 「そうなのか…」 そうか桔梗の上のことが絡んでいるのか。 やはりただの義理の弟として接していてくれるだけなのか。 俺はじゃあどう思ってるんだ?丈の中将のことを… いや駄目だ。それは絶対に抱いてはいけない夢だ。 牡丹から男に惚れてはいけないと何度も忠告されているのだから… 頭を振って打ち消していく。 「ふふっ、宮中では洋月の君は大人びているけど、まだまだあどけない可愛らしさを持っているのだなぁ。仕草が可愛い…」 目を細め、温かい眼差しを注いでくれる丈の中将に、俺の心はますますぽかぽかと温まってくる。

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