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このような姿で 1

憂鬱な気持ちを抱えながら、帝と御簾越しに対面する。 「牡丹…遅くなりました…」 「洋月、何故こんなに遅れたのだ?」 「申し訳ありません。左大臣の姫の見舞いに寄ってから来たので…」 「ふっ…お前は、まだあの姫を抱けぬのか…」 「はい…」 「何故だ?」 「それは姫が拒んで…私と会うことを…」 「まぁいい。あの姫は所詮お前の地位を保つための道具にすぎぬ」 「わかっておるだろうな。女を抱くのは構わぬが、決して私以外の男にその肌を触れさせてはならぬ」 「さぁこちらへ来なさい」 俺は牡丹に、先ほどの丈の中将から受けた行為がばれないかと怯えながら、いつもと変わらない様子を装い、自分の直衣を淡々と脱ぎ捨てて行った。 そして頼りない白い小袖姿になると、御簾を潜り抜け寝所へ入り、意を決して願い出た。 「牡丹。今宵は…どうか…もう少し灯りを暗くしていただけませんか」 「ん?どうした?お前がそんなことを要求するなんて珍しいな」 「まぁそうだな。いい子に言うことを聞くのなら、そうしてやろう。今宵は趣向を変えて、お前に特別な装束を用意したのだ」 「…なんですか?」 「 さぁこれに着替えなさい」 そういって渡されたのは、驚いたことに女子(おなご)の装束だった。 「えっ…?これは女子のものでは?このようなものを…何故?」 「成長した洋月よ。お前は最近とみに麗しゅうてな。 これが似合う年頃になったと思うのだ、さぁ早く支度をしなさい」 「そんな…こと…俺が…」 帝が目で合図をすると、屏風の影から隠密の女官が何処からか数人現れ、あっという間に十二単を着せられてしまった。 「嫌だ…」 小さく呟く抵抗は何処へも届かない。 着物を1枚また1枚と重ねられるにつれ、俺の心は…男としてのプライドをズタズタにされ 、羞恥心で満ちていった。 ありえない…こんな仕打ち。 あっという間に一髻(ひとつもとどり)を解かれ、肩まで降ろされた髪に、つけ毛を施され、 口には紅を塗られ…白粉まではたかれる。 なんで…こんな…目に。 口惜しくて…屈辱で唇を噛みしめると同時に、涙が目尻に滲んでくる。 拒否したかった! だが…この首元の印が見つからないようにと素直に気丈に振る舞うしかない。 「おお!美しい!お前は母親にやはり瓜二つだ」 帝の前に立つと、興奮した眼で躰の隅々まで執拗に見られ、恥ずかしく決まりが悪く、目を伏せた。 「さぁ早く、早く私のもとに来なさい」 牡丹の膝に手を引かれ座らされ、髪の毛を執拗に撫でられる。 あぁ…全身鳥肌が立つような行為が今宵も始まる。 その覚悟を決め、唇をきゅっと噛みしめた。 耐えねば。 髪の次は唇を奪われる。 帝の髭が唇をなぞる度に、心がざわつく。 だがもう慣れた…この程度のことは。 帝は執拗に俺の唇の上を舐め回し、薄く開いた唇を割って舌を挿し入れ、 逃げる俺の舌を強引に絡めとり、執拗に執拗に口腔内で蠢く。 次は胸をまさぐられるはずだ… もう何年、何回こんなことを繰り返しただろう。 手順を覚えてしまうほどに滑稽な行為だ。 「待て…今宵は、女子(おなご)の姿だ。そう易々と脱がすのは惜しいのぅ」 帝はそう呟き、今日は胸よりも先に下から手を入れてきた。 予期せぬ動きに思わず俺は声をあげてしまう。 「あぁ…!」 手は容赦なく俺の長袴を割って中に入り、下半身をまさぐり俺の大切な部分に指を絡め、その先の、大事なところも執拗に執拗に撫でまわす。 「んっ…」 俺は目を瞑り、唇を噛みしめ耐えるだけだ… 脱がされる前に、首筋の痕が見つかる前に、暗くせねば…そのことばかりが気になり必死に懇願するしかない。 「ど…どうかもう…灯りを早く消してください。このような姿で抱かれるのは恥ずかしい。どうか…」 「よしよし可愛い子だ…いいだろう…次の呼び出しでは、最初からこの姿で宮中に参るように」 「なっ!」 俺の人格は何処へ。このような女装姿で牛車に乗れと…いうのか? 人目に触れるかもしれないのに。 だが逆らうまい…今宵は。 丈の中将が初めて付けてくれた大切な印を守りたい。 「…はい…」 「ふふふ可愛い奴だ!」 やっと明かりは消され、あの人の印は暗闇にかき消されていった。 そのかわりに、十二単を小袖ごと乱暴に胸元までずり降ろされた、あられもない姿の俺が、月明かりに浮かびあがった。

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