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 僕は胸を撫で下ろし部屋に入ると、急いでエアコンのスイッチを付けて温かい風を送り出す。 「狭い部屋ですみません。適当に座ってください」  適当にと言っても、僕の部屋はタンス、テレビ、ベッド、テーブルというどこの家庭にもある家具が、この狭い部屋に一様に押し込められている。  彼は少し辺りを見渡した後、部屋の入り口側のテーブルの前に腰を下ろした。  警察官が家に居るのだと、興奮で心臓が激しく打つ。 「君は大学生だよね?」 「そうですよ。四月で三年生になります」 「そうなんだ。じゃあ、今は冬休み期間かな。そうだ、挨拶しておかないとね」  そう切り出すと、懐から黒い手帳を取り出す。僕の目が瞬時に輝き、これがドラマで見る警察手帳というやつかと心が躍る。  手帳を縦に開き、見せつけるように「中岸 稔です」と名乗った。  やっぱり本物は迫力が違うなと、僕は思わず感心してしまう。 「君の名前は?」 「僕は矢崎 玲です。なんか女みたいな名前で恥ずかしいです」  初めて警察官と話した事に少し興奮した僕は、つい饒舌になってしまう。 「いや、可愛い名前だよ」  稔さんが微笑みを浮かべ、恥ずかしい事を言ってくるので思わず赤面してしまう。  イケメンが微笑むだけで、ここまで場が華やかになるとは‥‥‥この人は一体何人の女性を手玉に取ってきたのだろうか。 「じゃあー早速だけど、ここに名前書いてもらえるかな? あと、印鑑と身分証を出して欲しい」  稔さんが胸ポケットからボールペンを取り出すと、僕に手渡してくる。テーブルの上に置かれた、クリップボードに挟まれた受領書にサインをし、鞄から印鑑と学生証を取り出す。 「ここの大学って、偏差値高いんじゃなかったっけ?」  手渡した学生証を見た稔さんが、驚いた声を上げた。 「そ、そんなことないですよ」  僕は慌てて否定する。確かに、私立大学の中ではそこそこ上だが僕自身はそこまで頭が良いわけではない。 「へぇー文学部なんだね。僕は高校出てすぐ警察学校に入ったから、大学生が羨ましいよ」 「えっ? じゃあ、お幾つなんですか?」 「22歳にだよ。勤務歴は3年目に入るけど、まだまだペーペーさ」  思った通り歳が近い。もしかしたら警察官と知り合いになれるかもしれないと、僕は軽い下心が芽生え始める。

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