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バレンタインデー・ラブトラブル:まさかのミッション!?

 どうして大事な情報って本人の口からじゃなく、第三者からもたらされることが多いんだろう。大事だからこそ直接聞きたいと思っているのに、ご丁寧に知らせてくれる友人がいる。 (――それは僕たちって傍から見たら、危なっかしいカップルに見えるせい?)  胸の前で腕を組みながら、正面にいるふたりに目をやる。 「えー、今それを言う? もう少し、あとでもいいだろ」 「だって直前でバタバタ慌てるよりも、先に知っておいた方が、ノリトさんの気持ちの準備ができるじゃないですか」 「普段落ち着き払ってるノリトの慌てふためく顔が、間近で見たかったのになー。すっげー残念」 「淳さんって、結構悪魔……」 「大隅さんてさー、ノリトがスキなのか? 随分と親切だからさー」  信じられないそのセリフに、僕は深いため息をついた。大隅さんってば親切にするなら、淳くんにだけすればいいのに。 「淳さん、それは違いますからね。本当に全然違います……」 「そっかー。あれ、ノリトなにその残念そうな顔?」 「僕のは違う意味で、残念って思ってるんだよ。ねぇ、大隅さん」  ニヤニヤしながら言うと、心底困った顔をした大隅さん。 「う~、ノリトさんも悪魔。淳さんと類友なんですね」  ちょっと前に僕は淳くんに告白され、吉川と淳くんの友達関係が微妙な感じになったけど、大隅さんの機転により、絶妙なバランスが保たれていた。  しかも大隅さんは淳くんの失恋を癒すべく、やけ食いのお供をした。何となくだけど、それからふたりの雰囲気がいい。きっと彼女が、淳くんの癒しになっているに違いない! 「ふたりとも、本当は聞きたくないけど教えてよ、吉川の情報……」  渋々切り出すと、大隅さんは『まってました!』と言わんばかりに身を乗り出した。迫力満点である。 「ノリトさん、大変なんです。吉川ファンの友達が言ってたんですけど――」 「そこからは俺が言う。その現場に立ち会って、一部始終を見ていたから」  なぜだか胸を張って、偉そうに言い放つ淳くん。現場って、いったい……? 「去年は俺とバレンタインのチョコの数を競っていた吉川が、今年は誰からも貰わないって言ったんだ。本命から貰う手作りチョコがひとつあれば、十分だからとか格好良く言い放っていてさ」 「吉川のヤツ、そんなことを言ったんだ。それは吉川ファンが、悔しがるワケだよな」 「だろう? あの校内放送で、大々的に誰かと付き合ってる発言してるから、今年は絶対に勝てると思ったのに。堂々と勝ち逃げされちまった」 「もうノリトさんっ、注目すべき点は、そんなところじゃないですってば!」  鼻の穴を広げて興奮した大隅さんが、僕の机をダンダン叩く。 「吉川さんの本命って誰ですか?」 「……僕」 「しかも吉川、手作りチョコって言ってたからな。きっと頭の中でノリトの体にチョコを塗ったくった姿でも思い浮かべて、あんなことやそんなことを想像したんだろう」 「ちょっ、淳さん。それ、萌えちゃう!」 「大隅さんが好きそうだなぁと思った。こういう話を考えるの、実は得意なんだ」  困惑しまくりの僕を他所に、盛り上がる目の前のふたり。手作りチョコって、いったい? 「あ、ノリトさんが灰になってる」 「だってチョコを貰ったことのないノリトが、チョコをあげなきゃならないんだ。しかも手作り指定。吉川ってば、無茶振りするよなぁ」  満面の笑みを浮かべた淳くんは、哀れな僕の頭をガシガシ撫でてくれる。正直、全然癒しになってない。手を離したらきっと静電気が起きて、すごいことになるのが想像つく。 「大丈夫ですよ、ノリトさん。まだ時間はあります。一緒に手作りチョコを作りましょう?」 「大隅さん本当!? いいのかい?」 「もちろん! 早速放課後、お買い物に行きましょう。淳さんは弓道部に適当な理由をつけて、お休みすることを伝えてくださいね。吉川さんには大隅さんの荷物持ちするから借り出されたとか言って、うまいこと誤魔化してください」 「了解。君にはおごって貰った借りがあるから。言いつけは、きちんとこなしますよー。大隅姫」  てきぱきと指示をした大隅さんに、敬礼する淳くん。 「ノリトも、ぽやぽやしてる場合じゃない。しっかりしないとさー」  淳くんがゲラゲラ笑いながら指差す先は、僕の頭。好きでぽやぽやしてるんじゃない! 誰のせいで、こんなになったと思ってるんだ! 「ありがとう、大隅さん。すっごく助かる……」  言いながら必死に髪の毛を直すべく、手串で整えたけれど余計にひどくなる始末。まさかこれが不幸の予兆であるなんて、このときは思いもしなかった。

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