1 / 14
【序】(助走 Ⅰ)
さぁ、飛び込みの時間ですよ
お嬢さん
口づけるように指先が手の甲を撫でた
指が十字 を書く
生きてきたこれまでの免罪符にもなりはしないのに
もう一度、十字を書いた
彼女の手の甲に指を滑らせて
嗚呼 、そうか
畏れているのだ
死を
生を冒涜する死を
永遠の孤独に堕ちる死を
泣いても笑っても、これは只の自殺に過ぎない
結果、只のひとりの男の死なのだ
世間は自殺という言葉ひとつで片付けるのだ
悩む程バカらしい
だから
ならば
この水面 の下に……
川縁 を引っ掻いて飛び込もう
生へのあがきを刻もうではないか
人生を歩んできた、この足で
私の最期の創作です
文字なき創作となるのです
十字は書き終えました
私はひどく寂しがりなので、女を連れていきます
さぁ、飛び込みの時間ですよ
お嬢さん
ともだちにシェアしよう!