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【序】(助走 Ⅰ)

さぁ、飛び込みの時間ですよ お嬢さん 口づけるように指先が手の甲を撫でた 指が十字(クルス)を書く 生きてきたこれまでの免罪符にもなりはしないのに もう一度、十字を書いた 彼女の手の甲に指を滑らせて 嗚呼(ああ)、そうか 畏れているのだ 死を 生を冒涜する死を 永遠の孤独に堕ちる死を 泣いても笑っても、これは只の自殺に過ぎない 結果、只のひとりの男の死なのだ 世間は自殺という言葉ひとつで片付けるのだ 悩む程バカらしい だから ならば この水面(みなも)の下に…… 川縁(かわべり)を引っ掻いて飛び込もう 生へのあがきを刻もうではないか 人生を歩んできた、この足で 私の最期の創作です 文字なき創作となるのです 十字は書き終えました 私はひどく寂しがりなので、女を連れていきます さぁ、飛び込みの時間ですよ お嬢さん

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