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誕生日
「ただいまー。」
「おかえり!晩御飯できてるよ」
俺の不規則な仕事のせいで1ヶ月会えなかったかわいい恋人。
一緒にいる時間は短いけど、その間すごく尽くしてくれるし、かわいい。
何より俺の仕事に文句を言わない。
これまでの別れる原因は例外なく仕事だったから、理解があるのは助かる。
2人で向かい合って座り、手を合わせる。
1人じゃいただきますなんて言わないけど。
「お、これうまい」
「ほんと?張り切って作りすぎちゃったから、いっぱい食べてね」
「ありがとな。……あー、あのさ、2週間はこっちにいられるって言ってたけど、明日の朝には出ないといけない。1週間ちょいくらいで戻るけど」
「へ、へぇ〜そうなんだ!がんばってね!お弁当はいる?」
「おう、頼む」
急な予定変更でも、何も言われないのは正直、楽だ。
1人の生活を楽しめているんだろう。
「んじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃいっ」
笑顔で見送ってくれるこいつが愛しい。
これを見ると頑張ろうと思える。
俺から軽くキスを落として、家を出た。
「はぁ〜!終わったー」
お疲れ様、お疲れ様でしたと声を掛け合いながらこきこきと肩を回す。
メンバーが良かったおかげで、予定より早く終わった。
「なぁ、この後飲み行かね?」
同僚からの誘いに返事ひとつで答えた。
集まれたのは6人ほどで、にぎやかに飲み会は始まった。
「そういやさ、お前、恋人いなかったっけ?」
これまで、今回の仕事の成果だとか出来だとか話してたのに、急に矛先が俺に向く。
「いるけど……急に何?」
「誘ったのは俺だけど、帰らなくていいのか?」
「帰るって連絡してないし、早く帰られても困るだろ?」
思ったことを口に出しただけなのに、いっせいにブーイングを浴びせられる。
「お前、それは無いわ。彼女かわいそすぎ」
「絶対、早く帰った方がいいって」
「高田も彼女を驚かせるって早く帰ったんだぞ?」
彼女じゃないけど、という安定のツッコミはさておいて。
「別にあいつ、寂しいとかないと思う。言ってきたことないし。それに、今から帰ったらもう11時だぞ?」
「それ、お前が寂しいって言わせてないだけだろ。寂しくないわけないって」
「言わせてないってなんだよ」
なんで急にこんなに責められないといけないんだ。
「もう、お前今すぐ帰れ。んで、謝ってこい。どうせ、仕事なんだから我慢すんのも当然とか思ってんだろ?」
「また、別れられんぞ?」
謝るもなにも、相手は気にしてないし。
我慢するのが当然とは、思ってないこともないけど。
これは帰らないと永遠に言われ続けるパターンだな。
「じゃあ、一応帰るわ。なんとも思ってないと思うけどな」
さっさと帰れ!という言葉に見送られ、新幹線の空席を探した。
家の前にたって、できるだけ静かに鍵を開ける。
もし、寝ていたら悪いし。
でも、ドアを開けた瞬間、俺の胸には恋人が飛び込んできた。
「うおっ!おいおい、危ないだろ?裸足だ…し………」
笑いながら頬に手を添えた瞬間、彼の顔が涙でぐしゃぐしゃなのに気がついた。
「どうした!?何かあったのか?」
「す……き…………」
俺の質問に答えることはなく、ポツリと呟いて眠ってしまった。
ベッドに寝かせた後、リビングに戻ってみると机の上にはビールの缶。
あの泣き顔は酒のせいか。
何かあったわけじゃなくてほっとする。
酒なんてあまり飲まないのに珍しい、しかもつまみはコンビニケーキかよ。
そこまで考えてはっとした。
もしかして、もしかしなくても今日はあいつの誕生日だ。
俺は今日休みのはずだったのに、今日も仕事で。
酒のせいなんかじゃないじゃないか。
まるっきり俺のせいだ。
はっとして、時計を見る。
まだ、11時10分。
時間はある。
それだけ確認して、ダッシュで家を出た。
近所のコンビニで小さな丸いケーキとろうそくを買って、急いで家まで戻った。
よし、間に合う。
眠っているところ、申し訳ないと思いながらゆさゆさと肩をゆする。
「ん〜?」
涙のあとの残る頬に胸が苦しい。
「ごめんな、遅くなって。ちょっと起きれる?」
「え?わっなんで?仕事……あ!何かあったの?」
泣いてたことなんて忘れてるのか、それとも俺のために隠してるのか、必死に俺の心配をする。
「違うよ。……遅くなってごめんな。誕生日おめでとう」
「え……?嘘だ…………」
ぼーっとしながら、頬をつねっていたっと叫んでいる。
かわいいが、少し頬が赤くなったな。
さすってやりながら、ごめんなを繰り返す。
「そんなに謝らないで。今、一緒にいてくれてるのほんとに嬉しいから」
「さすがに、誕生日にいてやれなかったのは酷かった」
「ううん。いつもがんばってくれてるの知ってるし。しょうがないよ」
「違う。ずっとお前に甘えてたんだよ。寂しいって言わせなかったってのもほんとだな」
はてなを頭に浮かべながらも幸せそうにしているのをぎゅっと抱きしめた。
「このケーキ!俺が好きなやつ!」
にこにこしながら食べる姿はずっと見ていても飽きない。
来年は絶対、もっといいものを用意しよう。
こいつと別れるなんて想像できないから。
「お?電話?珍しいな」
「恋人の声が聞きたくてな」
電話越しでもわかるにこにこ笑っている様子に、俺もそっと笑みをもらした。
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