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浮気
大学からの近道にあるおしゃれなカフェ。
スタバにすら入るのに怖気付く俺には馴染みがない。
普段は見向きもしないそんな場所で彼を見つけたのは本当に偶然だった。
その場で立ち止まって、会いに行くかそのまま通り過ぎるか悩んだ。
まぁ、今まで会いに行くって決めることはなかったけど。
この悩んでる時間が幸せだなぁって。
会いに行かないまでも、彼の横顔を見られるのは幸せだ。
1人で本を読んでいるらしく、真剣な顔。
かっこいい……
そんなにやにやした俺の心情が変わるのはそれからすぐの事だった。
トイレらしい場所から歩いてきたのは、若い綺麗な女の人。
ぽんっと彼の肩に手を置くと彼はニコッと笑って軽いキスをした。
「………え……?」
嘘だ。
あれは違う人かもしれない。
キスしたのは錯覚かもしれない。
女の人が外国人で普通の挨拶だったのかもしれない。
いくら「かも」を考えたって、彼は彼だし、はっきりキスしてるのは見えたし、挨拶で口にキスをするのは年配の人だけで同性だけだ。
呆然と立ち尽くしたまま、乾いた笑いが出た。
動かなかった足がやっと動くようになって、訳が分からないまま家に帰った。
外ではダメだと我慢していた涙が次から次へと落ちてくる。
それなのに口角はあがったままさがらない。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。
初めて出来た恋人だった。
優しくて。
甘くて。
いつも愛してるって言ってくれた。
あの言葉は嘘だったんですか?
ほんとは直接言いたかったけど、そんな勇気なくてラインで別れようと一言送った。
その言葉を見て、自分で打ったくせにまた涙が滲む。
すぐに返事は返ってきた。
「急にどうした?」「何かあった?」「俺のこと嫌いになった?」「好きな人ができた?」
嫌いになるわけがない。
好きな人ができた?って…………
できたのは俺じゃない。
また一言、ごめんとだけ送ってスマホの電源を落とした。
翌朝、行かしてもらってる大学は休めず彼から逃げ回っていたけれどやっぱりつかまった。
「理由もなく、別れられない」
もっと冷静に話したいのに、頭ん中は沸騰したように熱い。
「お前のせいだろ!?好きな人が出来たなら言えよ!」
「は?」
彼はそういったあと気まずそうな顔をした。
やっぱり勘違いなんかじゃないよな……
「…………俺は2番目は耐えれない。なんでも受け入れたかったけど、これだけは無理だ。やっと、俺だけを愛してくれる人に出会えたと思ったのに」
「ごめん。本当に俺が悪かった。二度としないからやり直してくれないか……?」
やり直してたい……
でも、だめだ。
また、胸の痛みを抱えて生きるのは嫌なんだよ。
「無理だ。もう信じられない。本当は最初っから俺を愛してくれる人なんていないって分かってたよ。ありがとう、気まぐれでも俺は楽しかったし嬉しかったよ」
「気まぐれなんかじゃない!俺は愛してる!」
「……裏切ったくせに」
初恋は実らないって本当らしい。
まぁ、もう次の恋はないけど。
誰にでもなくばいばいとだけつぶやいた。
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