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優しい『人』

スっと何か白いものが横切った。 視線で追って子猫だと気づくのにそう時間はかからなかったけど、車道に飛び出した猫に対して初めに思ったのはあぁー猫の○返しみたいだと呑気なものだった。 子猫は車の音や振動に怯えながらも何とかひかれずに、その儚い命を保っていた。 誰もがそれを見て大変だとか助けなきゃとか口々に喚くが、動くことは決してない。この通りは車が多く、車道に『人』が飛びたず事ほど危険で迷惑な話はないからだ。そんな『人』に俺はうんざりしていた。そして、それをおかしいと思いながら行動できない自分にも。 そんな事を考えているとキキーー!!!!とけたたましいクラクションがいくつも鳴り響く 顔を上げるとスラッとした男が道路に飛びたしていた。車はその男を轢かないために止まり、中にはクラクションに留まらず、罵声を浴びせるものもいる。だが、その男はそんなのを気にもとめずに子猫に近寄り抱き上げ頭を撫でていた。 優しい『人』だと思った。 男は何事も無かったかのように歩道に戻ってくると子猫を車道とは反対にある草むらに逃がしていた。この草むらには沢山猫がいてそして、この道路付近ではよく子猫の死体が見つかっていた。あの子もこの人が、いなければそうなっていただろう。 さっきまで、助けなきゃと言っていた奴らは打って変わって飛び出すなんて危ないだの、何を考えてるのだと口々に言う。 その人は子猫がちゃんと草むらに入ったのを確認して、立ち上がった。そしてこちらに歩いてくる その男は白く儚げで美しく、まるで天使のようだと思った。 「…………あ、あの!俺、楠本渚と言います! 良かったら、名前教えてくれませんか?」 「………………。」 「あ!!いえっ!!その、怪しいものとかじゃなくて、えーと、あっ!学生証あります!!!」 何言ってんだろう。でもせめて、名前だけでもと思ってしまった。何故かよく分からないけど見ただけで終わらせたくないと思ってしまった チラッと男を見ると微笑んでいて、ちょっとびっくりした。 「あ、あの??」 「あ、ごめんね。名前はルイ。」 「ルイさん。」 「ふふっ、ルイでいーよ。渚。」 ルイ……これが俺が最初で最後の恋をする 優しい優しい『人』になる。

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