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7 〜ヂェッ〜
「おい!お前達みたいな奴らの来るところじゃないぞ。」
何か怒られた。
「場違いで悪かったな。ここの主人に機会があればと言われて来たんだが、からかわれたのか。」
「何?何か身の証を立てるものはあるのか?」
「これだ。」
ジェミルがおれがもらった刺繍入りのハンカチを見せると、偉そうだった男の態度が改まった。
「失礼した。これは確かにうちの主人の物だ。あの方は滅多に人に渡したりしないから、きっと理由があるのだろう。すぐにでも取り次ぎたいところだが、今日はこちらには来ないんだ。」
「お気遣いありがとうございます。今日はお店の場所を知りたかっただけなので大丈夫です。ここは良い町ですね。」
「そう言っていただけるとありがたい。明日は主人が来る日だから良かったらまた来てくれ。」
「気分を害していませんか?」
「別に?職務に忠実な人なんだなー、って思ったよ。」
だって声かけられただけだし、場違いは事実だし。
「あとは警備隊の詰め所に寄って、どこかで夕飯食べて帰ろ?」
「詰め所に?」
「うん、ちょっと聞きたい事があるから。」
初任給とか家賃相場とかね。
「あ…果物食べたい!」
カットフルーツが売っている。かなり歩いて疲れたし、喉も渇いたので休憩がしたい。とは言え、果物の味が分からないので注文のしようがないなぁ…
「喉の渇きを潤すのにおススメの果物はどれですか?」
ジェミルに聞いても良いんだけど、果物の出来で味が変わるかも知れないので店主におススメを聞いた。
「そうだな、これかこれかこれ!がおススメだ。味見するか?」
試食させてくれるの?良い人だなぁ♡
楊枝みたいな物に一口サイズに切った果物を刺して差し出される。
え?あーんするの?
驚いたけどそう言うものかな?とベールを外してぱくりと食べる。見た目はブルーベリーなんだけどぷちっと弾けて炭酸風味。
「!!何これ!美味し〜い♡」
「ルーベルだ。知らないのか?」
「初めてです!こっちは?」
「クートだ。」
桃!めちゃくちゃ美味しい桃!
はわわわわ…たっぷりの果汁が溢れそう…て言うか溢れた。
すかさず人差し指で拭ってくれたジェミルが指についた果汁を舐めた。いやぁ〜ん、エロいぃぃ…。
「おい、お前みたいな平凡顔が手を出すんじゃねぇ。」
「なぜ?」
「こんな美人の濡れた唇から溢れる雫、なんてそうそう拝めるもんじゃねぇだろうが!」
「…すみません、軽率でした。」
「謝るの!?」
何故か謝るジェミル。おれの驚きはスルーされ、店主によって差し出されたもう1つの果物、ランジーを口に入れた。
「あっ、それは…」
「すっっっぱーーーーい!!」
見た目はオレンジだけど味はレモンだった。唾液腺が刺激されて大量の涎が口に溜まる。
「ひゃっきのくらはいっ!」
飲み込んでも飲み込んでも唾液が出てきて変な喋り方になってしまう。店主はにやにやしながらジュースをくれた。
甘くて濃厚なバナナ風味のジュースをもらってどうにか落ち着く。
「ひどいよー…」
涙目で訴えれば興奮した顔で手を伸ばし、おれの手を握って言った。
「結婚してくれ。」
脈絡もなくダンディなイケメンに口説かれてる!?
「ふざけるな、身の程を弁えろ。」
店主の手を叩き落したジェミルから冷気が。
いや、怒気だな。
「お前よりはマシだろうが。」
「俺は…」
叩き落した勢いはどこへやら。言い淀むジェミルの手を握って言う。
「おれは結婚とかまだ考えられないけど、ジェミルの事、好きだよ。あなたは手当たり次第に口説いてるんでしょ?」
「んな訳あるか!」
「ふふふ…客商売だから口が上手いんだよね。」
いたずらもサービスの内なんだろう。
あれだ、トルコアイスみたいな。
「はぁ…本気なんだが…まぁ良い。さすがにこんな美人が俺と結婚してくれるなんて思えないしな。」
無理だと思ってもまず行動!…ちょっと見習うべきかも?
ルーベルとクートを注文するとイタズラの詫びだと無料にしてくれた。さっきのジュースもサービスだって。
「ジェミルは?」
「俺は炭酸果実水で。」
果実水は果汁を絞って水で薄めた飲み物だ。今回のは炭酸水にルーベルの果汁を入れてランジーのスライスを浮かべた物。
炭酸水は天然らしい。
グラスは無いのか高いのか、木製のコップで、カフェオレボウルくらいでかい。横から見えないから上から見えるように、って工夫。
味見させてもらったら微炭酸で美味しかった。
「はい、あーん!」
ジェミルにクートの味見を強要。(笑)
照れながら口を開けるのが可愛い、と思ってたら店主がものすごく近づいて来ていた。
「美味いか?」
「はい!」
「…俺にもそれ、やってくれないか?」
あーん?
して欲しいの?
「してやる事はない。」
ジェミルが口を挟んで店主と睨み合う。
脳内で「ケンカをやめて〜」…と言う歌が再生された。
あの歌の女、ひでぇって思ってたのに自分がその立場になると…ヤバい、嬉しい。
生まれて初めてのモテ期だもんね。
「いつでも無料でフルーツ食わせるから、頼む!!」
必死か。
「良いよ、はいあーん。」
楊枝で刺して店主の口に運ぶとでれっでれになった。
「なぁ、オレにもそれ、してくれないか?」
いつのまにかギャラリーが集まっていた。
でもこれはおれがもらったんだし、もう最後の一切れだ。あげない!
「だったらコレ味見してくれ!」
「おい!勝手に…」
「代金だ!」
お店に並べてあったカットフルーツを持って来て味見を勧める。
って!!
それさっきの酸っぱいヤツ!
「食べさせてあげる♡」
楊枝を持つ手をそっと握り、にっこり笑って差し出した本人に勧めるとぽーっとしながら口を開けた。
えい!
「…ぐふっ!?」
酸っぱいだろー?
何でそれ食べさせようとしたの?嫌がらせ?リア充爆発しろ的な?
「び、美人に食べさせてもらうと何でも美味いな!!」
顔は真っ赤で涙目で。なのに嬉しそうに言う。
「…それ、酸っぱくてムリ。嫌がらせ?」
握っていた手をぺいっと離して睨みつける。
「!! 違っ!…すまん、何も考えずに出ていた物を持って来たんだ。」
アホだった。
それにしてもあのランジーを食べて割と普通に喋ってるの、すごいな。まぁ、酸っぱかったのはバチが当たったみたいなものだな。
「これからは気をつけてね?」
あざとく首をこてんと倒して上目遣いで口を尖らせると何故か固まって滂沱の涙を流し始めた。
「ジェミル、行こうか。」
今更だけどベールを被り、店主に手を振ってその場を離れた。
「ミチル…さっきは、その…」
「うん?」
「惚れ直した。」
「どこに!?」
惚れ直す要素なんてなかったと思うんだけど、と聞いたらランジーを食べさせられそうになった時の返し方がツボだったらしい。
「ねぇ、ジェミル…ジェミルがおれに惚れたって言うのは、恋人になりたいとか結婚したい、とかって事?」
「もちろん!」
「そうだったんだ…。」
「…あ!すまない、ちゃんと伝えていなかったな。」
ジェミルは道の真ん中で人目も憚らず片膝をついておれの手を取った。
「それほどの容姿でまるで驕らず、素直で優しいミチルが好きだ。こんな個性の無い俺だけど、ずっと側に居させて欲しい。恋人に…いや、できれば伴侶にしてくれないか?」
会って3日でプロポーズ!?
早過ぎない?
そもそもこの国の結婚がどう言うものか分からないので、先ずその説明からお願いします。
返事はしばらく保留しまーす!!
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