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9 〜ガーオ〜
コップを持ってジェミルの隣に移動。
「なぁ、なんであんたほど個性的なヤツがそんな型押しと、しかもこんな店で呑んでるんだ?そもそもこんな店じゃ場違いだろう?」
「こんな店で悪かったな。気に入らなきゃ来るな。」
あ、店長さん?
「違うって!俺達には良いけどこの美人には合わないんじゃないかって…」
「美味しいし居心地良いよ?」
「だとさ。」
酔っ払いがぐぬぬってなってる。
しょうがないなぁ。
「お酒はみんなで楽しく飲むものでしょう?ね、あなたはどんなお酒を飲んでるの?」
「ん?あぁ、これだ。」
急に話が変わって素直になる酔っ払い。
「味見して良い?」
にっこり笑って手を伸ばすと、少し戸惑ってから遠慮がちにコップを渡してくれた。ぴりりとスパイシーな香りでアルコールもキツそうだ。警戒しながらぺろりと舐めると、舌が焼けるように熱い!!て言うか痛い!!
「こりぇ ひたが いひゃいぃ〜…」
甘いお酒で中和!って思ったけどおれのはそんなに残ってないし、ジェミルのも少し強かった。
「ほら水!」
店長さんがお水をくれた。
おれが小柄だからかなり薄く作ってくれていたらしい。薄いって言われたら濃くしようと思ってたんだって。うん、ちょうど良かったよ!!
「てんちょうしゃん ありやと ごじゃましゅ」
う〜〜〜〜…舌が上手く動かない…。
「あじみ しゃしぇて くりぇて ありやと。しょのおしゃけ ちゅよいね。」
あれぇ?うまく喋れないし、関節に力が入らないような…?頭が重くてユラユラする…舐めただけなのに…?
「ミチル、帰ろう。」
「ん… かえりゅ… おふりょ はいりゅ…」
「…溺れるぞ。」
「じゃぁ いりぇて?」
ごふぅ!!って店にいた人達全員が吹いた。
どうしたの?
結局歩けなくっておんぶしてもらって帰った。
「風呂の準備してくるから、ここで待っててくれ。」
「はぁい。」
ベッドに降ろされてぐにゃぐにゃの身体を投げ出して返事をする。
ひと舐めでこれってヤバい…まぁ強すぎて美味しくないからまた飲む事はないだろう。あ、少なかったけどジェミルのも飲んだから、そのせいかな?
「…ミチル?湯の準備ができたぞ。」
「んー…しゃきに みじゅ…」
「ほら、水。立てるか?」
すでにコップが持たなくて飲ませてもらう。井戸水だから冷たくて美味しい。
抱えられるようにして洗面所へ行ったものの、何もできない。
「脱がしてぇ…」
「えっ!?いや、その…」
何で男同士なのに恥ずかしがってるんだろう?…前にもあったような…?
…恥ずかしい?
…恥ずかしい………
「ごみぇん、やっぱ はじゅかしいから ぬげないぃ…」
危ういところで思い出したもう1つのコンプレックス。下着脱いだら見られちゃう!
「それが良い。身体は拭いてやるから。」
「よういして くりぇたのに ごみぇん。」
「気にするな。ベッドに戻るぞ。」
あー、ふわふわする。
お姫様抱っこだぁ…
「ジェミルー、さっきは 怒ってくりぇて ありがとー。」
「…いや、余計な事をしてすまなかった。」
「よけいー?しょんな事ないよー。守ろうとしてくれたんでしょー?」
「だが…」
「んー、怒るほどじゃ なかったから 止めたけど、嬉しかった…。
ありがとう、おやすみ。」
ベッドに降ろされた時、届く距離にあったからつい頬にキスした。
…ら、その状態でジェミルがフリーズした。おれは力が抜けてベッドに沈む。明日の二日酔いが怖いなー…。
「!!」
ジェミルが急に覆いかぶさって来て噛みつくようなキスをされた。雰囲気イケメンになってナンパした事はあれどコンプレックスのせいで経験はゼロ。まっさらです。
知識としてしか知らないディープキスにひたすら戸惑う。鼻で息をする事だけは分かるけど、口内を蹂躙するジェミルの舌は熱くて自分では思いもよらなかった部分で感じてしまって抵抗する事もできない。
「ふぁぁぁ…」
口の中って気持ちいいんだぁ…
そう思いながらなすがままに受け入れていたけど、ふいにジェミルが離れた。
「すまない。」
そう言って部屋を出て行く。
水音が聞こえるからお風呂かな?
お酒と口付けの余韻に酔いながらおれは眠りに落ちた。
朝になって目を覚ましてもジェミルは部屋に居なかった。身体はさっぱりしているから拭いてくれたのかな?
「あ…」
身体を拭いてもらったと言う事は、身体を見られた…って事?
え?
アレを見られた???
恥ずかしすぎる!!
「ミチル、体調はどうだ?」
「ジェ、ジェミル!?あ、あのっ!」
「昨日は悪かった!」
「えーっと…、何の事、かなぁ?」
「覚えてないのか?」
「酔っ払いのお酒、味見したら強過ぎてヘロヘロになって…ジェミルに迷惑をかけた?」
「迷惑じゃない。」
「お風呂の準備させといて寝ちゃった事?」
「そんな事何でもないし、俺が謝るのはおかしいだろう。」
あ、そっか。
「じゃあキスされた事…、かな?」
「っ…そうだ。酔って抵抗できないミチルに…俺は…」
「先に頬にキスしたのはおれだし…」
苦悩の表情を見せるジェミル。なんだか申し訳ない…
「別に初めてのキスだからって大切にとっておいた訳じゃないし、その…びっくりしたけど嫌じゃなかったよ?」
「初めて…?」
あ、言わなくても良い恥を自ら暴露してしまった。まぁ良い。それより気になっているのは裸を見られたのかどうかと言う事。…下着の中は絶対に見られたくないんだー!!
「あのあの!身体拭いてくれてありがとう。…その…見た?」
「見っ…ないように気をつけたが、その…多少は…」
「し…下着は…?」
「誓って脱がせてない!だから、汗を流したいなら湯の用意を…」
良かった〜…。
「朝ごはんの後で使わせてもらうね。お湯の用意は自分でがんばりたい!」
「分かった。さぁ、スープが冷めないうちに食べよう。」
「おっはよ〜♡
聞いたわよ!ハリムの店で絶世の個性派が客を悩殺しまくってたって!」
「悩殺???」
「それはそれは色っぽく、あからさまに誘ってた、って。」
まったく心当たりがなくて悩む。
「良いから早く食べよう。後で出かけるんだろう?」
うん、考えても分からない事はスルーで。
「そうだ。ねぇ、エルヴァン。化粧品作れそう?」
「まだ何も見つからないわ。」
「そっか。でも作ったとして商売するの大変だよね?」
「そうね…。きっと値段はいくら高くても売れると思うの。でもお金持ちとか貴族とか、そう言う人には安全でないと売れないわよね。下手な物売ったら恨まれるかも知れないし…」
肌荒れして痕が残ったりしたら絶対恨まれる!まずは薬屋さんとかお医者さんとかに相談しよう!!
その前にご飯を食べてお風呂に入って…そうだ、カドリさんにはすっぴんを見せてないから会いに行くにはメイクした方が良いかも知れない。よし!気合いを入れよう。
「お待たせ〜!ジェミル、カドリさんのお店に行こう?」
「アンタ誰よーーーー!?」
そんなに違う?
…違うよね。
「どうやったらここまで顔を変えられるの?この技術があれば私も絶世の個性派美人になれるって事!?」
うーん…
おれの顔を目標にして、細い目…は無理かな?元々彫りが深いから浅くするのはありかも知れないけど、ハイライトでどうにかなるかな?
あとはシェードの入れ方とか唇の厚みとか…紋様の代わりに漢字書いたらウケるかな?あ、紋様は血筋を表すんだから勝手なモノ描いたらダメだ。
「どんな風になるか分からないけど、やってみる?」
「お願いします!何でも言う事聞くから!!」
これが尊敬の眼差しか。
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