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21 〜イーシップエッ〜
「おはよう、ミチル!今日もメイクしてくれる?」
「おはよう、エルヴァン。いいよー!あ、ショートパンツ履いてる。けっこう短いね。」
「家の中ではね。外ではシンよ。」
シンと言うのは巻きスカートだ。
こっちもパカマーと同じ1枚の布だけど、広げた時の大きさが違うし、生地の厚みも違う。
昨日、迎えの人を待たせちゃったからささっとエルヴァンにメイクをして着替えて待つ。
「エルヴァンはこの前言ってた商品は売れたの?」
「あれは置いといて、今は化粧品の試作に付き合ってるわ。ミチルに言われた通りのやり方で煤を集めて、練ってもらって…まずは目立たない部分の皮膚につけてみてかぶれないかと、どれくらい腐らないかを実験中よ。他の顔料もね。」
レンキさんの意見も聞きつつ、試してくれているそうだ。
丸投げしちゃってたな。まぁ、強力なスポンサーもいるし、良いか。
「そうそう、今度また来てね、ってマサキが言ってたわよ。」
「うん。次の休み…明後日行くよ!」
イザーニさんから酔い止めの薬をもらっておいてくれるよう頼んだ。
迎えに来た人に向かって、メイク済みで機嫌の良いエルヴァンがにっこり笑ってミチルをよろしく、なんて言ってる。迎えの人がエルヴァンの顔と脚を交互に見てるので笑いそうになった。
「おはようございます!」
「おはよう、ミチル!」
「ミチルちゃん、おはよ〜。」
「おはようございます。」
いつものように身支度をしてスケジュール確認。
今日の昼食会は面接の時にいたうちの1人で、井戸を掘ったり道の整備をしたりする人達のまとめ役。相手は大工さんの大元締め。うん、ガテン系の人達ってことだね。
夜は面接の時の人達、全員。
「質問があります!」
おれは昨日の控え室でのやり取りを覗かれてた件について質問した。
「知らずにやってたの〜?」
「サービス精神が旺盛なのかと思ってたけど素なの!?」
「知らせない方が良いと判断しました。」
う〜ん…知ってたらぎこちなく…なってたかも???
まぁいいや。それで、おれがそこらの酒場に出没するとそのサービスの価値が下がるのかな?って考えちゃって。
「私達は庶民の酒場にはほとんど行きません。できればあなたにも行って欲しくはありません。ただ、人は覗く事に興奮を覚えるものですから、頻繁にでなければ禁止はしません。」
奢ってもらったお礼にお酌と回し飲みした、って言ったら今度、食事に行こうってヒューリャに誘われた。ここで一緒に食べてるのに?
それはそれ、これはこれ、と言う事で次の次の休みの日に約束した。3日働いて1日休み、のサイクル。
ガテン系の人達は昼間っから強いお酒を飲むようだ。お酌をする時の匂いがもう…
「すみません、匂いで酔いそうです…」
エジェさんにこそっと訴えればお酌をネルミンと交代させてくれた。
「…どうした?」
担当を代わった事が気になったようだ。
「ミチルはお酒に弱くて、粗相をしかねないので交代させていただきました。」
「粗相?してくれて構わないが。多少の事でいちいち腹をたてるほど小さい男じゃないぞ。だいたい飲んでないだろう。」
「いえ!匂いだけで粗相どころか仕事にならなくなりそうですので。」
腰砕けになったら従業員どころか客としても迷惑だよね。
「どうなるのか見せてくれなぁい?」
大工の元締めがまさかのオネエ。
ガチムチ寄りなのに…
「ほらほら、私のお膝に乗って?飲まなくて良いから。」
どうするべきかとエジェさんを見ると、断っても構わないと言う。この世界にはまだ、セクハラの概念はなくて、嫌がる事をしない、がマナーと言うか常識らしい。
ただし、嫌なら嫌とはっきり言えないと止めてもらえない。人によってはちょっとハードルが高いと思う。お膝においで、なんて女の子にやったら絶対ダメだけど、男同士だし、まぁ良いか。
いや、お酒がダメなんだって!!
「酔うと歩けなくなっちゃうので、お許し下さい。」
「抱っこでお持ち帰りしてあげる♡」
「イヤです。」
「え〜、ザンネ〜ン…」
「…ヒューリャ、酌をしてくれ。」
「はい。」
知り合いかな?お気に入りかな?
ネルミンもオネエ様の隣に座ったし、一緒に食べ始めた???
しかもあの強いお酒、勧められて飲んでる!!
「あのお酒、昼間っから普通に飲むレベルなんですか?」
「そうよ。夜なら口の中が痺れるような強いお酒じゃないと物足りないけど、昼ならあれくらいね。」
と言う事は、口の中が痛かったやつが普通で、ジェミルのは薄かったのか。そして俺が飲んでたのはほぼジュース…。日本では普通に日本酒だって飲んでたのに…でもウィスキーやブランデーはロックじゃ飲めなかったな。
昨日の人達は武闘派だから、いつでも戦えるように弱いのしか飲まなかったんだって。
「アタシもお酒弱いフリしようかしら〜?」
「ランゴ様、手遅れですよ〜。」
「まだ新しい出会いもあるはずよ!その時には…」
「酔い潰してお持ち帰りなさるんですか〜?」
おほほほほ、と笑い合う。
不思議な接客だなぁ。会員制のレストランみたいなものなのかな?
イマイチ商談をしている感じじゃなかったけど、とにかく2人が帰ったので賄いを食べた。
夕方になって面接官達が来た。商人ギルドの四天王…じゃなくて重役達だ。ハヤル様はさっきも来てた、インフラ整備の元締めの人だ。
「ミチル様、今日もお美しい。」
「カドリ様、おれは従業員ですから呼び捨てにして下さい。」
「ですが…」
「お世話になってるのはおれの方ですよ?」
あれ?
おれじゃなくて私にした方が良いのかな?誰も気にして無いから、良いかな?
それにしても…
贅沢言っちゃいけないんだけど、なんだかやり甲斐がないなー。からかわれてうまく返して、なんて出来ないし。
はぁ…
「どうされました?」
「あっ、ご、ごめんなさい!!何でもありません。」
仕事中のため息はまずい。
気をつけよう。
会議の後の打ち上げみたいな感じで食べさせてもらった。良いのかな?
…良いのか。
それにしても存在意義が実感できない仕事だなぁ。何か隠してる?
え?例の野盗が意外にも大きなグループらしくて、商人の出入りが滞っているから商談が少ないの?そうか。早く捕まえられるといいね。
………いや、おれが出しゃばるとか、足手まといだよね。誘き出すための囮なんてね。
そうだ、もし囮が必要ならその人にメイクしてあげたら役に立てるかな?よし、聞いてみよう!
「エジェさん、デミル様にお話したい事があるんですが。」
昨日話しをしていた野盗を誘き出す計画がないか聞いてみた。
「確かにそう言った提案もあるが、まだ調査も始まっておらん。それに被害報告が複数箇所から出てきて、調査人数を増やさねばならなくなった。計画の練り直しだ。」
この前の人たちはそのままだけど、もう2ヶ所派遣しないとならなくなったそうだ。またのぞき部屋やるの?
「おう、1組はそうなるだろうな。もう1組は金に困っとるから断られるだろう。」
がははと笑うじーちゃん。
でも、みんな覗かれてるの知ってたら上品ぶってきゃっきゃっうふふしないんじゃない?
「そこはエジェがリードしてくれるんだ。」
え?
と、エジェさんを見ると、にーっこりと艶やかに笑った。
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