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(日常小話)ひよしさんの好きなとこ
Side 空
ひよしさんと家で夕食を食べているときだった。
「なぁ、空。俺の好きなとこ10個言ってみて」
突然、ひよしさんがそんな事を言ってきた。
「え、なんで?」
僕はハンバーグを頬張りながら聞き返した。
「いいだろ。聞きてーんだよ」
ひよしさんはビールをぐびぐび飲みながら上機嫌で言った。
また尿酸値あがっても知らないよ。
「10個もあるかなぁ」
「ねーのかよ!俺は空のいいとこ100個くらい言えるぜ。言ってやろうか?」
「い、いえ、遠慮します」
本当に100個言われそうで、慌てて止めた。
「よし、じゃあ言ってみよう!俺の好きなとこ10個」
「うーん…」
僕はちょっと考えた。
そりゃ、ひよしさんのことは好きだけど、それを口に出すのはなんか恥ずかしい。
「言えるまで帰れま10!」
「ここ家ですけど」
「ノリわりーな」
「うるさい、酔っぱらい」
「ほら、いいから、早く言えよ。服脱がすぞ」
「なんでそうなるの…。うーん、腹筋とかかなぁ」
「お、他には?」
「大胸筋、背筋、僧帽筋、上腕二頭筋…」
「全部筋肉じゃねーか」
「でもひよしさんの筋肉は好きだよ」
「じゃあそれが1個目な。他は?」
ちっ、筋肉の種類で10個言おうと思ったのに。
「んー、運転がうまいとこ」
「お、いいな。まぁ一人の時は荒いんだけどな。あと8個」
「バスケやサッカーがうまいとこ」
「体育教師だからな。あと7個。つーか、そういう技術的な部分じゃなくて、もっと内面的なところで何かあるだろ?」
「え、内面…、えっと、優しいところ…とか」
つい素直にそう言ってしまった。
言ってから、なんか急に恥ずかしくなった。
ひよしさんは分かりやすく嬉しそうな顔をしている。
「おーいいね!そういうの聞きたかった。あと6個は?」
「うぅ、いつも元気なところとか、ご飯を美味しそうに食べるところとか、面白いところとか、喋り下手な僕の話をちゃんと聞いてくれるとことか…」
ゆっくり言うのが恥ずかしくなって、僕はいっぺんに言った。
ひよしさんは凄い満足そうな顔をしてる。
「そうかそうか、うんうん、そんな風に思ってくれてたんだな、空。やっぱ空は俺のことが大好きだな」
「…この際だから言っておくけど、ドSなところと変態なところはキライだからね」
「好きなとこしか聞きませーん」
もう、都合のいいことばっかり言って。
「ほら、あと2個は?」
「う、その、か、かっこいい…とこ」
顔が赤くなるのが自分でわかった。
ひよしさんはかっこいい。
ちょっとした仕草にドキッとすることが結構ある。
でも恥ずかしくって、本人にかっこいいなんて言ったことなかった。
なんかもう勢いで言っちゃったけど、口に出したら、想像以上に恥ずかしくなってきちゃった。
「空、かっこいいなんて言ってくれたの初めてだな!ずっとそう思ってたのか?あーなんか感無量ってやつだなぁ。聞いてよかったわ」
ひよしさんは、僕の方を見てニカッと笑った。
その眩しい笑顔を見て、なんか胸がきゅっとしちゃって、もう耐えられなかった。
「も、もう終わり!ごちそうさま!僕シャワー浴びるから!お皿洗い、今日はひよしさんの番だからね!」
僕は残りのハンバーグを勢い良く平らげてから、まくし立てるようにそう言った。そして、そそくさと浴室に逃げ込んだ。
「あ、おい空!最後の1個聞いてねーぞ」
ひよしさんの声が後ろから聞こえた。
好きなところを、本人の前で言うのがこんなにも恥ずかしいなんて思わなかった。
最後の1個…
ひよしさんの1番好きなところは、
その笑顔だよ、バカ
END
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