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(日常小話)1日のはじまり

Side 空 僕にとって、一日のうち1番幸せな時間。 それは朝食のとき。 「空、おはよ」 朝食の準備をしていると、ひよしさんが寝室からあくびをしながら出てきた。 「おはよー、ひよしさん」 僕もひよしさんに答える。 「今日の朝飯は何だ?」 「フレンチトーストだよ」 僕はパンをひっくり返しながら答えた。 僕らは、ご飯の準備を当番制でやっている。 2人ともあまり料理をしないから、最初のうちは外食が多かったけど、最近はちゃんと作ろうって事になった。 まだ簡単なものしか作れないけど、料理結構楽しいかもって思い始めてる今日この頃。 「おー、フレンチトーストいいじゃん!焦がすなよ?」 「昨日、目玉焼き焦がした人に言われたくないんですけどー」 こんな感じでまだまだ失敗は多いけどね。 焼き上がったフレンチトーストをお皿に盛り付け、僕らは向かい合って座る。 「「いただきます」」 声を合わせて言った。 「あ、そうそう、これ買ったよ」 僕は思い出して冷蔵庫からピーナッツバターの瓶を取り出した。 「お前、ほんとピーナッツバター好きだな」 「ひよしさんも好きじゃん」 「まぁな」 僕は、蓋を開けようとするけど、固くてなかなか開けられなかった。 「空、非力過ぎ」 ひよしさんがからかうように言った。 「だって固いんだもん」 僕は口を尖らせる。 「貸してみ」 ひよしさんが僕の手から瓶を取り、「ふんっ!」と言って蓋を開けた。 「ほら、余裕で開いたぜ?」 ひよしさんがしたり顔で言った。 「あ、ありがとう…」 何か言い返したかったんだけど、それ以上にちょっとカッコよく見えちゃって、不覚にも何も言えなかった。 「空、なんか顔赤くね?」 「べ、別に赤くないし」 誤魔化すようにピーナッツバターをパンに塗りたくり、頬張った。 パリッという音と同時にピーナッツバターの甘じょっぱい味が口の中に広がった。 「おいしい」 「うまいな」 僕らは顔を見合わせて笑う。 おいしいものを食べると自然と笑顔になるよね。 「あ、やべ、あんまのんびりしてる時間なかった」 ひよしさんが時計を見て慌て出す。 ひよしさんは教員だから僕よりも早めに家を出る。 パンを食べながらササッと準備をし、まだもぐもぐとパンを頬張っている僕の頭を撫でてくる。 「んじゃ、行ってくるな」 「うん、行ってらっしゃい。今日体育の授業あるから、また会うけどね」 「だな」 僕とひよしさんは向かい合う。 ひよしさんが僕にチュッとキスをくれる。 「今日も空の唇はやわらけーな」 ひよしさんがニヤッと笑って言った。 「…ばか…」 僕は恥ずかしくて下を向く。 カーテンの隙間から日差しが差し込む。 天気がいい。秋晴れだ。 今日も一日がこうして始まる。 これが僕の1番幸せな時間。 END

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