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Ⅱ 今日から俺は⑥

キラン ナイフの光が手元でささめく。 これで俺の着衣を切り裂いたのか。 「刀なら、もう二秒早く斬れた。しかし廃刀令があるからな」 明治に発布された法律で、軍人・警察及び正装である大礼服着用時以外、帯刀は禁じられている。 「総理が銃刀法違反はよろしくない」 林檎の皮を剥く時に使う、折り畳み式の小さなナイフを胸ポケットにしまう。 「無一物(むいちぶつ)になったな」 黒瞳の端、素肌に縄の掛けられた俺の姿を映した。 「文字通り何も持たない君が、私に何ができるか、理解できたか?」 (総理は、それを諭すために俺をこんな格好に?) だけど。 何も思いつかない。 俺には理解が及ばない。 「分からないなら仕方がない」 不意に。 得体の知れない柔和な微笑みが、瞳の内に揺れた。 一体、いつ。 どこから持ってきたのだろう。 (そんな物!) 俺はボディーガードだ。 暴漢に捕まった時の対策として、拷問の類いについては書物で勉強した。 ゾゾッと背筋に悪寒が走る。 今、総理の手にしている物は、どんな書物でも見た事ない。 俺の知るどんな拷問器具よりも凶悪で、恐ろしく凶暴、且つ禍々しい器具なのである。 「君の覚悟を引き出すのも、大人たる私の務めだ」 頼む。 やめてくれ! 大人だったら、そんな物使わないでくれ。 こんな物を使われたら、維新の志士たちだって震え上がるに違いない。 「私は全ての日本国民に敬愛の情を持って政治を行っている。ストライクゾーンは10歳から70歳。しかし、こんな私にも弱点がある……」 秀麗な指が、クイっと顎を持ち上げた。 「私は…………」 犬しか愛せない。 ジャラン、と鎖が鳴った。 彼の手には、首輪。……そして。 モフモフの犬耳がー!!! 「猿渡君」 私が(しつけ)てあげよう。 「ギャアァァァァーッ!」

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