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パーフェクト・ワールド・ハルⅡ-4
賑やかな声が響いていた昼休みから、一瞬、騒音が消えた。そしてちらほらと自席に集まるクラスメイトの視線。廊下に面した列の後ろから二番目が行人の席だ。良席だが話しかけにくる生徒はあまり居ない。それも自分が周囲を遮断しているからだと理解している。だからすぐに誰かと分かった。その自分にわざわざ話しかけに来る変わり種。
「榛名」
落ちた影に、広げていた文庫本から視線を上げる。予想していた通りの顔が、見覚えのあるノート片手に立っていた。
「ごめん。おまえが昨日、広げてたノート、俺の方に紛れ込んでたみたいで」
「あぁ」
そう言えば、机の上の一式をまとめて、借りていた参考書とともに高藤の机に置いた記憶がある。そのときに紛れ込んだのか。
「悪い。俺だな、紛れ込ませたの」
「俺も確認してなかったから。と言うか、午後からで良かった?」
「そう、ラスト」
「なら良かった」
ノートを机上に置いて、高藤はそのまま空いていた前の席に腰を下ろした。クラス内の視線は相変わらず刺さるようなのに、気づいているのかいないのか、あるいはもはや注目されることに慣れているのか。高藤は寮にいるときと変わらない顔で笑う。
「それにちょうど良かったわ。ちょっとウチのクラスのテンションに付いて行けなくて。休憩させて」
「すごいらしいな」
「いや、……その、水城がどうと言うわけじゃないんだけどね、あくまで。浮ついてる連中が多いってだけで」
その言い方は、いかにもらしい。学年の中でもかなり目立つ部類のアルファであるはずなのに、高藤には驕ったところがない。ともすれば、アルファであることを忘れてしまいそうなほどに。
「荻原が言ってた。ウチのお姫様だって」
「あー……、うん、でも、荻原はそこまでじゃないから。言い方は軽いかもしれないけど、ちゃんとしてるし」
「別に何も言ってねぇだろ。そんな必死にフォローしなくても」
「だって、榛名。好き嫌いをすぐ顔に出すから。あと三年、どう転んでも同じ寮なんだから、それなりには仲良くしろって」
「はいはい。大変だな、フロア長」
「そう思うなら協力しろよな。おまえ、昨日も……」
不意に言葉を途切れさせた高藤の視線を追って、行人は息を落とした。
「おまえのところも風紀の見回り多いんだってな」
「なんだかんだ理由付けてるらしいけど、絶対必要以上に多い。篠原さんも言ってた。って、うげ」
心底嫌そうに下がった声に、もう一度その視線の先を辿って、後悔することになった。
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