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パーフェクト・ワールド・ハル0-1
「以上を持ちまして、歓迎の言葉とさせて頂きます。在校生代表、七十六代生徒会会長、成瀬祥平」
誰もが知る大女優の面影を色濃く映した美貌が、壇上で静かに微笑んでいる。さざめくような感嘆は、外部からの編入生が大半だろうが、彼を知っていたはずの内部生でさえ、久しぶりの逢瀬に瞳をときめかせていた。相変わらずだと思うと同時に、あの取り繕いきった笑顔の下で、臍を曲げているだろうことも窺い知れた。とは言え、それに気が付く人間はごくごく少数なのだろうけれど。
拍手を受けて壇上から下る凛とした背を見送って、高藤皓太は、そっと苦笑を零した。
皓太が進学した私立陵学園高等部は、名門と称される全寮制の男子校だ。とりわけ、新入生の九割近くを占める中等部からの内部進学者は、良家の子息が多く、アルファの比率が一般的な学校より格段に高いことで有名だ。その学内においても、頭一つ飛びぬけて目立つ存在。絶対的な存在感を誇示するアルファの上位種。
そう噂されている人物のうちの一人でもある彼は、皓太の二つ年上の幼馴染みだった。中等部に入学するずっと前から彼を知っているし、可愛がってもらっている。ただ、彼のシンパに絡まれたくはないので、声高にその関係性を口にするつもりはないのだけれど。
「やっぱり、かっこいいなぁ。成瀬さん」
「榛名……」
色ボケしきった声に、皓太は隣に座っていた友人に視線を向けた。頭半分低いところにある茶髪が驚いたようにふわりと揺れる。声に出していたつもりはなかったのか、我に返ったように緩んでいた表情を引き締めた。榛名の少女めいた童顔に険が走る。
「なんだよ。しょうがないだろ、久しぶりなんだから」
「久しぶりも何も、おまえ、櫻寮に配属されたのを良いことに、春休み中、ここぞと会いに行ってなかったっけ?」
中等部に引き続き、また成瀬と同じ寮に配属されたことがよほど嬉しかったらしい同室者が、正式な入寮日より早く足を運んでいたことを、皓太はよくよく知っている。頼んでもいないのに、寮室に戻るなり嬉々として聞かされたからだ。
三年間同じ寮室で暮らしたにもかかわらず、あんなに嬉しそうな榛名の顔を見るのは随分ぶりで。安心するやら、同室者としての嫉妬をくすぐられるやら、だったのだが、当人は知る由もない。
「行ったけど! 俺が実家に帰る前にちょっと挨拶に行っただけだし。それだって一週間は前だし。……そもそも、こう言う場所で成瀬さん見るの久しぶりだし」
「一週間前に見たら十分だと思うけどね」
「実家に帰っても会えるおまえと一緒にするな」
中等部時代に諸事情あって、榛名には、成瀬と幼馴染みだと言うことを知られている。
「いや、……」
あの人、長期休暇中もほとんど実家に帰らないし。との真相はさておいて、皓太は続けた。
「あの人、生徒会の仕事だ何だって、寮に居残ってたと思うけど」
「ふぅん。大変なんだな、生徒会。おまえは去年、そこまで大変そうじゃなかったのに。これが高等部と中等部の違いなのかな」
「性格の違いだろ。と言うか、その手伝いで向原さんも残ってたみたいだし。二人で気楽にやってたんじゃない?」
「向原、さん」
出てきた名前に、心底嫌そうに榛名が眼を眇めた。折角の美少女顔が台無しだとは思うが、蹴られたくないので口にはしない。
「どうせ、また榛名が余計なことをしたか言ったかしたんでしょ。何回も言ってると思うけど、向原さん、見た目ほど怖い人じゃないってば」
成瀬さんに難癖付ける人には容赦しないだろうけど。後半は心中だけに留めて、皓太はおもねた。
成瀬と共にこの学園に君臨する双頭。向原枢は、穏やかな空気を纏う成瀬とは異なる、いかにもアルファらしいアルファだ。同性が憧れるような色気のある美貌と、すべてを難なくこなして見せる高い能力の持ち主でもある彼は、家柄も学内トップクラスだ。人を突き放すような雰囲気のある向原を畏怖する後輩も多いが、榛名が嫌うのはまた別の理由だと皓太は知っている。
案の定、榛名は式の最中だと言うのに、柳眉を逆立てて生徒会役員が列席している方向を睨みつけた。
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