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鏡家の当主
新幹線に乗るのこれで二回目って言ったら、一樹さん、すごく笑ってた。中三の修学旅行以来だもの。そんなに、変かな⁉
僕は、三列シートの窓側の席、一樹さんは、真ん中の席。通路側に、橘内さんが座るのかと思ったら、
「新婚さんのお邪魔はしたくないので」
そんな事を言って、前の車両に移動していった。
考えてみたら、こうして、一樹さんと二人きりで過ごすの、初めてかも。緊張からか、両手に汗をかき、指や、つま先が疼く。
何だか、そわそわして、落ち着かない。
「大丈夫⁉」
一樹さんの手が、僕の手にそっと重ねられた。
「熱でもある⁉」
ううん、と頭を振れば、
「そんなに、緊張しなくても。俺まで、緊張するだろ」
いつも見せてくれる優しい彼の笑顔を見ているうち、自然と、落ち着いてきた。
「昨日、あまり、寝てないんだろ⁉寝てていいよ」
「あの、一樹さん・・・」
昨夜の事、謝ったほうがいいかな。
ほんの出来心で、悪戯してごめんなさいって。
「昨日の夜ね・・・」
「ナオ、ごめんな。のぼせるまで無理させて。これからは、気を付けるようにする。あと、実家の、変なしきたりの事、言わないで、すまなかった」
「一樹さん・・・」
同時に口を開いたもの、彼に頭を下げられ、それ以上は言うことが出来なかった。
「あの父でさえも、頭が上がらない」
「そんなに、怖い人なの⁉僕、大丈夫かな⁉」
一樹さんの肩に寄り掛かかると、彼の手が腰に回ってきて、抱き寄せられた。当選を機に、スーツを何着か新調したみたい。今彼が着用しているのは、一番気に入っているシックなネイビー色のスーツ。クリーニング上がりの爽やかな香りがする。
「父は、母との交際を反対されていた。家柄が違いすぎる、学歴も高卒で、槙家の嫁として、品格が無さすぎる、相応しくないって。当時の鏡家の当主は、礼の祖父。父は、別の女性との結婚を強いられた。その矢先、母が妊娠している事が分かってーー今でいう、デキ婚かな⁉それで、仕方なく、結婚を認めたけど、母は、ずっと、肩身の狭い思いをしていたと思う」
「一樹さんの相手が、男だと知った時点で、もう無理だよ。絶対、認めてもらえない。一樹さんと、海斗の側に、ずっといたいのに・・・」
ーー嫌だよ、そんなの、絶対、嫌。
唇をキュッと、噛み締めた。
「俺も、ナオを失いたくない。俺たちの交際は、互いの家族が、公認しているんだ。それを盾に、頼んでみるよ」
「うん」
一樹さんが、何だか、格好よく見えてきた。
「そんなに、見詰められると、その・・・」
彼の顔がみるみる赤くなっていった。
「ーーキスしてもいい⁉」
小さく頷いて、顔を上げ、目を閉じると、彼の口唇が、唇にゆっくりと重なってきた。
ーー海斗、ゴメンね。
僕、一樹さんの事、好きなんだ。海斗と、同じくらい好き。
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