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第19話 スペア 2-1

「春日野先輩。俺、好きなんです先輩のこと」 「は? お前、誰」  やたらと背の高いボンヤリした顔の男――それがあいつの第一印象。そして夏の暑さで頭でもやられたのだろうかと、思わず哀れんだ視線を向けたことをなんとなく覚えている。けれどあいつはちっともそんな心情に気づくことはなく、真剣な顔をして俺をじっと見つめていた。  あれは確か大学四年、夏の初めだった。  そしてそれからあいつは――三木は気が付けば傍にいた。最初は驚いていたほかの奴らも、そんな状況が面白くて仕方がなかったのか、あいつの行動を助長するようなことばかりしていた気がする。いま思えばあの時、俺と三木が付き合う付き合わないと、賭けでもしていたのだろう。  しかしやはり何度思い返してみても、お互いそんなやり取りをした覚えはない。 「先輩、広海先輩」 「……」 「風邪引くよ」  ふいに身体を揺さぶられ夢うつつな意識が浮上した。重たい瞼を持ち上げれば、眉間にしわを寄せた三木の顔が目の前にあった。目を覚ました俺に何故かほっとした表情を浮かべる、その反応を訝しく思いながらも、俺はいまだボンヤリとする思考のままあくびを噛み締めた。 「一人で飲んでたの? 今日電話したんだけど、先輩から全然連絡ないからちょっと心配してたんだ」 「事務所に鞄忘れた」 「そっか」  テーブルの上に転がった空き缶をまとめてキッチンへ運ぶ三木の背を目で追うと、ふいに視線を感じたのか三木はこちらを振り返った。 「どうしたの? なんか俺の顔についてる?」

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