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第60話 パフューム 6-4
「……う、気持ちよかったくせに」
「お前は今晩そこでずっと正座してろっ」
眉をひそめた広海先輩に口を曲げると、ふいと背を向け布団に潜られてしまった。確かにがっついていいとは言われたけど、中に出していいとは言われてないし、風呂場でヤってもいいとも言われていないから、怒られて当然なのだけど、不服だ。
そろりと床を這いベッドに近づくと、その端から様子を窺う。俺の気配に気づいている背中は、どこか緊張したように固くなっていた。
「先輩、一緒に寝たいです」
「……」
「ねぇ、ぎゅっとしたい」
俺の声をことごとく無視して沈黙する背中――でも沈黙は肯定とみなして、俺はベッドの上に乗り、布団の端からその身を滑り込ませた。そして石鹸の香りがする身体を背後から抱きしめて、柔らかな髪に顔を埋める。やはりあの甘い香りは広海先輩の体臭なのだろうか、こうしていつもの香りを嗅いでいるのに、あの匂いがいまだに忘れられない。
「また発情したら外に締め出すぞ」
「あ、はい」
もぞもぞとした俺に気づいたのか、鋭い声が聞こえてきた。本当に寒空の下に放り出されかねないので、俺は努めて冷静さを思い出し、むずむずと湧き上がってきた熱を収める。
「先輩?」
ふっと深いため息を吐き出されて、思わず身体を起こして顔を覗き込んでしまう。するとちらりとこちらへ視線を向けるが、広海先輩はすぐにまた、ため息をついて顔をそらしてしまった。
「童貞臭、満載だったくせに」
「へ?」
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