78 / 147

第78話 デキアイ 3-3

 意思の疎通――確かに久我さんはいつも厳めしい顔をしているから、表情の変化がわかりにくい。大きな声を出されるだけで怒られているような気分になると、そう言っているスタッフもいる。でも俺はよくよく見ているうちに小さな変化が見えてくるようになった。それは言葉より雄弁だ。 「君は人の機微に敏感なんだね。久我さんの隣に立つなら、そのくらいがいいよ。ぜひこれからも頑張って!」 「ありがとうございます」 「あ、お友達待ってるみたいだから行ってあげたら?」 「はい、それじゃあ、失礼します」 「うん、ゆっくりしていって」  深々と頭を下げてからバックヤードを出ると、厨房を横切りホールへと向かう。三ヶ月前にオープンしたばかりでまだ真新しさを感じる店は、壁や床がぬくもりのあるウッド調だ。まるでコテージのような佇まいで、フルオープンになるガラス戸から柔らかい光が射し込みとても明るかった。十席ほどあるテーブルはそれぞれに十分な空間を取り配置されていて、すごくゆったりとした印象がある。  ガラス戸の向こうにはウッドデッキがあり、暖かい日にそこで食事をするのも気持ちがよさそうだ。駅から少し離れた住宅街の真ん中だけど、客席は半分以上埋まっている。  道すがら聞いた話では、この辺りには小さなオフィスも多いようで、いつも昼時は混んでいるらしい。ランチのパンが食べ放題でそれを目当てに来る人も多いようだ。確かにパンの香ばしい香りが漂うこの空間はたまらない。 「広海先輩、お待たせ」 「用事は済んだか?」 「はい、終わりました。あれ? まだ頼んでないんですか?」

ともだちにシェアしよう!