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第96話 デキアイ 5-7

「俺はお前を手放すのが惜しいと思った。お前は俺のもんだって思ってる。好きだとか嫌いだとか、そんなのはいまだによくわかんねぇよ。でもいまわかることは一つだけある。俺はお前が逃げねぇように退路を断ったんだ」 「先輩は俺に選ばせてくれたでしょう」 「お前の答えなんて初めからわかってる」  いままでずっとこんなに執着されているなんて思いもしなかった。一緒にいたいと思っているのは俺ばかりだと思っていた。  必死なんだろう――そう言った九条さんの言葉が思い返される。なんでもない顔をして、この人は俺を繋ぎ止めようと手を伸ばしていた。黙って見ているだけじゃいられなくなったんだ。 「広海先輩、俺は、これから先どんなことがあってもあなたから逃げ出したりしない。俺は絶対にあなたを離しません。だから覚悟していてください」 「望むところだ」  不敵に笑った先輩が男前過ぎて、また惚れ直しそうになる。俺はこの先もっともっとこの人を好きになるだろう。引き返すことなんて出来ないくらいこの愛に溺れる自信がある。  優しい手が俺の髪を梳いて撫でた。満足げに笑った彼の顔を見たら、胸の中にある感情が一気にあふれ出す。 「おい、危ねぇな。いきなり立ち上がるなよ」 「俺、先輩を好きになれてよかった」  抱き上げた身体を目一杯抱きしめて、浮かれたようにくるりくるりと回る。慌てたように頭に抱きついてきた広海先輩は文句をこぼすけど、そんなことは気にならないくらいに気持ちが高揚した。  好きとか愛してるじゃない。俺たちを繋ぐのはただ傍にいたいという想い。離したくない、離れたくない。これからもずっとその想いが俺たちを一つにする。それが俺たちのしあわせのカタチ。 [デキアイ/end]

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