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第99話 コイゴコロ 1-3
だがあいつはおしゃれにはまったくの無頓着だ。着るものにはこだわらないし、持つものにもこだわらない。
基本的にあれは料理と家事くらいしか興味がないのではないかと思う。だからなにを選べばいいのかわからなくて悩むのだ。調理器具はあいつが選んだものが揃っているし、家事をする上で必要なものなんてますますわからない。
「広海がいいと思ったものを贈れば、それで充分だと俺は思うけどな。毎年その調子じゃ渡すものもネタが切れてくるぜ」
「わかってる、そんなことぐらい」
「ふぅん、まあ、大いに悩めよ。これは俺から、ミキちゃんに渡して」
肩を叩くと九条は紙袋をデスクにおいて去って行く。茶色い手提げ袋は無地で、中を覗くとラッピングリボンの付いた紙袋が見える。
「なんだ、これ?」
「え? ミキちゃんもお前も楽しいもの、だと思うぜ」
遠ざかる背中を呼び止めれば、ニヤリと口の端を上げて笑う。そのうさんくさい笑みになんとなく嫌な感じがするが、勝手に突き返すわけにもいかない。ろくなものじゃなかったら捨ててやる、そう思いながらそれは足元に置いた。
「昼飯、行ってくる」
「はーい! いってらっしゃーい」
あいつのおかげで昼休憩を半分も消費してしまった。またパソコンにかじり付いてもなにかが浮かぶとも思えないので、とりあえず外に出て気分転換することに決めた。コンビニで適当にパンでも買っていつもの公園へ行こう。
「ん、あいつも休憩か?」
掴んだ携帯電話をポケットに入れようとしたら小さく震えた。なにげなく視線を落とせばメッセージを受信している。誰のものかを確認する前に思い浮かぶのはあいつくらいで、歩きながらそれを開く。
――明日は雪が降るらしいよ! 今夜は冷えそうだから鍋焼きうどんにしよう。今日は早番だから、一緒に買い物して帰ろうね。
絵文字やスタンプが賑やかに付いたそれを眺めながら、少し肩をすぼめる。道理でやけに寒いはずだ。年が明けて少し暖かい日が続いていたが、今日は朝から少し風が冷たかった。
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