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第101話 コイゴコロ 1-5

 純愛じみた恋愛は全部あいつに任せておけばいい。 「別に、形が欲しいわけじゃない」  いままでも誰かにそれを渡したことはなかった。欲しがるやつはもちろんいたが、俺には少しばかり重たすぎる。指にはまるだけの輪っかに自分自身を縛られるようで、どうしても嫌だった。この先の未来――それを誰かのために左右されるのは、ひどく窮屈だ。しかしあいつがもしそれが欲しいとねだるなら、ちょっとは考えてやってもいい。ほんの少しくらいなら。 「ほだされすぎだ」  自分らしくない考えに大きなため息が出た。どれだけ慣らされているんだろう。そういえばこんなに長く他人と一緒にいるのは初めてだ。洋服を着替えるみたいに取っ換え引っ換えだなと、揶揄されたこともあるくらいなのに。  あいつに告白された時もまだほかのやつと付き合っていた。覚えている限りではそのあとも二、三人くらいは相手が変わっていたと思う。大学を卒業して、仕事を始めてからは付き合いが面倒で全部切れた。  けれどあいつは告白してからずっと飽きずに俺を追いかけ回していて、傍に置くようになったのは、いつからだっただろうか。気づいたらずっと傍にいたから、その辺が少し曖昧だ。しかしあいつが酔っ払っていつものように俺相手に熱弁を振るって、散々ねだられて許したのは、なんとなくだが覚えている。  結局思い返してみると、なんだかんだと俺はあの男に甘いようだ。 「広海先輩!」  いつもまっすぐに笑みを向けてくる。俺しか見えてないんじゃないかと思うくらい、よそ見なんてしたことがない。それがなんとなく気分がいい、と言うのはつけ上がるので絶対口にはしてやらないが。  いまも俺を見つけた途端に満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。主人を見つけた大型犬が尻尾を振りながら近づいてくるような錯覚さえしてしまう。そしていつものように勢い込んで俺に飛び込んでくる。今朝家で別れただけだというのに、もう随分会っていないんじゃないかという勢いで。  それもまあ、可愛いが、いつものようにぞんざいに払って顔を引き伸ばしてやった。

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