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Ⅰ【荒城の月】 第14話
「俺、子供がほしいんです」
予期せぬ言葉に、耳を疑ってしまった。
「なので……雄としての生殖機能が失われずに、本当に良かったと思っています」
アキヒトがそんな事を考えていたとは。
意外だ。
だが……
案外、アキヒトらしいのかも知れない。
「可愛い子供が生まれるさ、きっとな」
「ずいぶん他人事ですね。統帥が産むんですよ」
………………………………え
「俺?」
「はい♪」
自分を指差すと、満面の笑顔でアキヒトがうなずいた。
(俺はΩだから……)
受精能力がある。
それはつまり、妊娠できる……という事なのだが。
(俺がアキヒトの子を)
今まで考えもしなかった事が、急に現実味を帯びてきて。
痛いくらい心臓が拍動している。
(確かに、俺は妊娠できて……)
アキヒトはそれを望んでいる。
でも、俺の性別はアキヒトと同じ男だ。
「俺がお前を……というのではダメなのか?」
「え?」
今度はアキヒトが首を傾げる番だった。
(たくっ)
鈍い奴だな!
「俺にも、お前と同じものが付いている」
「……はい」
「勃 つし………………せぃもできる」
「なにができるんですか?」
察しろ!
「………………せぃ」
「統帥?」
「だから!」
「はい」
「………………しゃせ、ぃ……だ」
……やっと言えた。
「統帥の精液には子種がないでしょう」
うっ。
(なぜこいつは、こうもはっきり言えるのだ)
こんなえげつない事を、きれいな顔してッ。
「それに、こういう役目は俺にさせてください。例え統帥がΩでなくたって、俺は統帥に『シたい』って思いますよ」
後ろから、きゅっと……
抱きしめられて……
首筋に、アキヒトが顔をうずめる。
「俺は、統帥が大好きなんです」
愛しています………
「俺は、あなたの騎士 です」
どうしてだろう?
彼を振り払う気になれない。
この腕を簡単にほどく事はできるのに。
この腕の中に、囚われていたいと思う。
耳の裏を舌先で舐めて、わずかに唇を下らせると……
チリっ
……微かな痛みが走った。
「印をつけました。俺がいつでも、あなたのもとに駆けつけられるように」
(とんだナイトだな……)
「アキヒト」
右手の手袋を、俺は脱ぎ捨てた。
足下 にアキヒトが跪 く。
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