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第200話 休息 7-3
「そうね、まだまだ時間は先だもの。三人でゆっくりあとで決めなさい」
お母さん買い物に行くからと、そう言って母は佳奈姉に目配せする。免許を持っていない母にとって彼女はすっかり足だ。けれど自分の役割を心得ているのか、佳奈姉は間延びした声で返事をした。そして母の背を追い、リビングから踏み出した足を止めてこちらを振り返る。
「あ、じゃあ佐樹。布団を出しておいてよ。ついでに乾燥機もかけておきなね」
「客間の布団でいいんだろ。出しとく」
「頼んだわよ」
「わかったって」
念を押して繰り返す佳奈姉を追い払うように手を振って、玄関の扉が閉まる音を確認すると、僕はおもむろに明良の襟首を掴んで、リビングの隅へ勢いよく引きずった。
「なんだ、どうした佐樹」
急に血相を変えて近づいた僕に、明良は驚きをあらわにして目を瞬かせる。
「お前、母さんたちに変なこと吹き込んでないよな」
「変なこと? あ、あー優哉のこと?」
耳元に顔を寄せ小声で話す僕の意図を無視して、明良は普段以上の音量で返事をする。
「空気読めよ馬鹿」
「別にそんなこそこそするほどの内緒話でもないだろ、さっき優哉にも言ったし」
「なにをだよ!」
面倒くさそうな表情を浮かべる明良に眉を寄せると、僕を見ていた明良の視線が後ろの藤堂へと流れる。そしてそれにつられるように僕も藤堂を見ると、僕ら二人に視線を向けられた藤堂はどこか不安げな表情を浮かべた。
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