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第25話
*
俺が先に家を出て、先生が後で車で通勤する。
先生は途中まででも送るって言ってくれたけど、教師と生徒の関係だし、歩いて行ける距離だから遠慮した。
「で、では……お先に失礼、します」
わざわざ玄関まで見送りに来てくれた先生に一礼する。
(これで良いのかな……)
なんだか挨拶がおかしいような気もするけど、流石にあの言葉を言う勇気はない。うつむいたままでいたら、不意に手を取られて、冷たく硬い何かを握らされた。
「え……これ」
その正体は鍵だった。
多分この家の合い鍵。
確かにこれがなければ家に入れないけれど、自分が持っていて良いのか自信がなくて、不安を交えた視線を先生に送る。すると先生は、柔らかく微笑んで、俺の頭をぽんぽんと撫でる。
「行ってきます、で良いんだよ。一緒に住んでるんだから」
「……ぁ」
ここが俺の今の家。そう言われているみたいですごく嬉しくて、ぎゅうっと鍵を握りしめる。たかが鍵、されど鍵。こんな宝物は他にない。
そんな素敵な物をもらったからには、堂々と言っていいのかも。
「い……行ってきます」
「ん。行ってらっしゃい」
堂々と言うどころか、つっかえてしまった俺に、先生は優しく応えてくれた。
嬉しい。
胸がぽかぽかあったかい。
そんなほわほわとした気持ちでドアを開ける。先生に見送られながら閉めようとしたところで、言い忘れに気づいた。
「あ……先生も、行ってらっしゃい、です」
先生もこの後に通勤するわけだから、間違ってない。けど、気恥ずかしいのも確かで、ドアに半分顔を隠す。
そんな挙動不審な俺に、先生は少しだけ驚いた様子だったけど、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。
「行ってきます」
先生のその笑顔が名残惜しいなんて思いつつ、ドアを閉める。階段を下って空の下に出ると、雲ひとつない快晴に目が細まった。
それはまるで、今の自分の心を写しているかのようだった。
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