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第202話

 「生まれてきてくれてありがとう、心」  「……っ」  先生の言葉に涙が溢れる。嬉しくて嬉しくて、言葉では言い表せないほどに、胸がぎゅうって苦しくなった。そんな俺の頭を、先生が優しく撫でる。いつだって俺を落ち着かせてくれる、大きくて綺麗な手。  「泣いちゃうの?」  「だって……初めて、言われたっ……からっ」  今まで邪魔にされたことはあっても、そんなことを言われたことはなかった。  自分はいらない子だって。何度も生まれて来なきゃ良かったって思った。人には決して言えないけれど、死んでしまいたいと思ったこともあった。  それなのに……ずっとひとりだったのに、今は俺がこの世に生を受けたことを、喜んでくれる人がいる。そして、その人が俺の大好きな先生だということがすごく幸せで、涙が溢れて止まらない。  「ふっ、う……うぅ……」  前のような悲しい涙じゃない。これは嬉し涙。こんな幸せな涙を流せるようになったのは、全部ぜんぶ先生のおかげ。  『先生、おねがい。俺をひとりにしないで……』  そんな俺のわがままから始まった、先生との生活。最初は戸惑うこともあったけれど、先生と暮らしてから、俺はたくさんのことを知った。  誰かと囲む食卓は、一人のときより何倍も美味しくなるということ。朝起きるのが楽しみになって、夜寝るのがちょっぴり惜しいという感覚。行ってきます、お帰りなさい、そんなちょっとした挨拶の大切さ。たくさん笑って支え合える、友だちの尊さ。  先生がいなかったら、決して知ることはなかった。先生がいたから、知ることが出来た。  先生はいつだって優しく接してくれて。親からの愛情を知らなかった俺の『家族』になってくれた。家族として、恋人として、愛情をいっぱいいっぱい与えてくれた。  (先生が……広君がいたから、俺は変われたの)  どうか。どうか、離さないで。これからも、ずっとそばに居て。  そんな願いを込めて、大きな背中に手を回す。  「広君……おねがい……」  「ん……?」  「ずっと……ずっと、一緒にいてね……」  「当たり前だろ……愛してるよ、心」  その言葉に、俺はまた涙を流す。  (あぁ……)  誰かと生きる、ってこんなにも素晴らしいことなんだ。  そう噛み締めて、膨らむ想いを声に乗せる。  「……俺も……好き。大好き……」  ずっと、ずっと寄り添っていたい。  そう思うほどに、貴方のことを、心から愛しているの。 《完》

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