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 急に教室内に悲鳴が上がり、思わず身を縮める。  「え、なに、まさか敵襲?」  「松野、マンガの読みすぎ」  松野君とそんなやりとりをしながら、大きな声に怯える俺の背中をナデナデしてくれる栗原君は、本当に頼りになるお兄さんなんだなって。高校生の自分が、小学生の弟さんや妹さんと同レベルなのは、情けない限りだけど。  「大丈夫だよ望月君。あれ黄色い悲鳴だから」  「ふぇ?」  栗原君に促されるまま、悲鳴が上がった方に視線を向けると、入り口で女の子の群れが出来上がっていた。そして、その真ん中にいるのは……。  (え!)  黒い髪と高い身長。あの人とよく似た顔だけど、あの人より少しだけキツめの目をしたその男の子は──。  「れ、蓮君⁉︎」  俺が声を上げると、それまで不機嫌そうだった表情が明るいものに一変し、蓮君はトタトタと俺の方へと駆け寄ってきた。その様子に、また教室内で悲鳴が上がる。  (蓮君の人気がすごい……)  呆気にとられているうちに、蓮君は俺の目の前まで来ていて、そのまま前からギュッと抱きしめられた。  「心……会えてよかった」  「ど、どうしたの?」  「心、委員会やる?」  「え?」  「いつ決めるか分からないから、聞いとこうと思って」  「え、えと、委員会……」  抱かれながらグルグルと思考を巡らせるけど、いいアイデアは思い浮かばない。それもそのはず……。  「その、俺、委員会やったことないからどれが楽しいのかとか分からなくて……」  去年は俺は何の係も担ってなかった。だから、どんな委員会があるかは分かっても、どれが楽しいのかは全く分からないのだ。  (どうしよう……せっかく頼ってくれたのに……)  「ご、ごめんねっ。役に立てなくて……」  申し訳なさすぎてシュンとしながら謝ると、いったん俺を解放した蓮君は、首を横に振って、大きな両手で俺の手をとった。  「違う……心がやるなら、それをやりたい」  「ふぇ?」  (どういうことだろう……?)  意図がよく分からなくて困惑していると、今まで黙って見てくれていた二人が、ついに口を開いた。  「え、ていうか誰?」  「なんかどっかで見たことある顔だねー」  「あ、えっと、この子は新入生の、蓮君って言うの。俺の──」  (あれ?)  ふと疑問に思い、言葉に詰まる。  本当のことを言って良いのだろうか。蓮君と先生が兄弟だってことは隠さないだろうし、もしここで俺と蓮君が従兄弟だって言ったら、先生とも必然的にそうなるわけで。  (そもそも、どうして従兄弟だってこと隠してたんだっけ?)  そういえば、ちゃんとした理由を聞いたことはないかも。なんとなく隠そうねって雰囲気になっただけで、明確な理由は教えてもらわなかった。  (でも、俺の一存では決められないよね……)  何か大きな理由があったら困るし、ここはひとまず当たり障りないことを言っておこう。そう思ったのだけど。  「関係ない」  「え?蓮君?」  「心と俺がどんな関係かなんて、この人たちには関係ない」  無表情で淡々と言った蓮君に、辺りが凍りつく。周りで騒いでいた女の子たちも、一斉に静かになった。しかし、蓮君はそんなことは御構い無しに、今度は後ろから抱きついてきた。

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