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第23話 告白編18

「ちょっとハル、足元の荷物邪魔」 「これ運んだら退かすから待てって!」      階段の上で自分の荷物を持ったオキに、これまた荷物を抱えている春樹が注意をされている。 「ねぇ……本当にいいのかな?」 「何が?」      階段の上の二人を眺めながら、俺が隣りで段ボールのフタを開けている涼介に問いかけると、のんきな声が返ってきた。 「この家だよ! ただの一教師達がこんなとこに住まわせてもらっちゃってさ」      俺がそう怒鳴ると、涼介はやっと意味を理解したらしく答えてきた。 「いいんじゃない? 理事長が貸してくれるっていうんだし」 「だけどさ……ここまで立派な一軒家だと、なんか気が引けないか?」      たいして気にした様子もなく荷物を箱から取り出していく涼介とは対称的に、俺はどこか落ち着かない様子で家の中を見上げてしまった。  ここは理事長が用意してくれた、当面の俺達の仮住まいだ。  なんともスケールの大きな理事長は、陽愛くん達から今回の一件を相談されるやいなや、すぐに学校から通勤も便利なこの一軒家を購入したらしい。  そして、住まいを知られている俺はひとまず犯人が捕まるまで身を隠すことになり、一人じゃ心配だから……という理由でなぜか涼介達四人もここで一緒に生活することになった。  一時的に身を隠せと言われたから、どこかのアパート……よくてマンションの一室を想像していた俺からしてみると、この家を目の前にして間抜けにもポカンと口を開けてしばし呆然としてしまったのは仕方ないことだろう。  だって、少しの間身を隠すのに庭付きの二階建てだぞ! 一人で住むとなったら逆に広すぎて恐いよ。  まあ、そんなわけで、今日は引っ越し初日ということもあり、まずはみんなで荷物の紐解きから始めている最中だ。 「まったく、理事長も規格外だよな~」 「いやぁ、さすが何だか一目置かれている先輩と、採用試験免除のエリートが頼むと違うねぇ」      先程の荷物を自室に置き終えたのか、身軽なオキが階段の上から会話に入ってきた。 「そんなんじゃないよ、理事長だって雪乃くんのこと心配してたし」  オキの言葉に涼介がふて腐れたように言い返したが、やっぱりこんな家で生活出来るのは陽愛くんと涼介のおかげなんだろう。 「いや、オキの言うとおり涼介達のおかげでもあるよ……ありがとな」 「雪乃くん……」      俺からの礼に、涼介が少し照れたように笑った。  それを見たオキが階段から下りてきて、からかうように涼介へと言う。 「あ、雪ちゃんに褒められて、涼くん照れてるでしょ。可愛い~」 「う、うるさいな! ほら、山くんも寝てないで自分の荷物片付けろよ!」 「ん~……」 「何だよ、この大漁旗って。すでに趣味の域、超えてんだろ」      オキからの指摘が恥ずかしかったのか、涼介は誤魔化すかのように陽愛くんにそう注意しながらその場から逃げ出してしまった。  その涼介と入れ違いに、オキが俺の横へと座った。 「雪ちゃんのこととなると、涼くんは一生懸命だねぇ」 「でも、オキと春樹だって俺のそばでさり気なく守ってくれてただろ」 「体力的に犯人を捕まえられるかは別として、一人でいるよりかは安心出来るでしょ?」      そんなこと言うけど、実際に犯人と遭遇したらオキのことだからしっかり捕まえてくれてるはずだ。  なのに、そうやって天邪鬼なことを言うオキにもこれだけ一緒にいると慣れてくる。 「オキと春樹も、ありがとう。本当に感謝してる」      ストレートに感謝の気持ちをオキへと伝えると、ちょっと予想外だったのか今度はオキが少し照れたような表情を見せた。  しかも、今は完全なプライベート時間なので前髪をピンでとめ眼鏡もかけていないオキの顔は隠すものが何もなく、はっきりと見える。  それを見て、俺はここぞとばかりにオキをからかう。 「あれ~、もしかして沖田先生、照れてます?」 「……うるさいよ」      そう言って拗ねたように顔を逸らすオキは俺からしてみれば涼介同様に可愛い後輩だ。 「こういう時は、オキも可愛いよな~」      貴重な素で可愛いオキを見られて俺が喜んでいると、いきなりオキが俺を床へと押し倒してきた。 「いってぇ~」      突然のことにすぐには状況が理解出来なかった俺だが、ゆっくりと目の前を見ると俺に覆い被さるように上にはオキが乗っていて、俺の顔を見つめていた。  いつも、校内で見慣れているオキとは違うその真っ直ぐに向けられる視線に、俺は変に緊張してしまう。 「そんな油断してていいの?」 「え……?」      オキの問いの意味がわからず聞き返すと、さっきの照れた表情が嘘かのようにオキは男らしい表情で囁いた。 「せっかく雪ちゃんと一緒に住めるこの状況……俺達が利用しないと思う?」 「えっ? え?」      言いながらオキの顔がだんだんと近づいてくるものだから、俺は余計に混乱してしまう。 「雪ちゃんに俺達をもっと知ってもらうチャンスだからね」      そう言ってオキの顔が俺へと近づき、恥ずかしくてとっさに目を瞑ってしまった瞬間、俺の上からオキの体重が消えた。  それを不思議に思い目を開くと、陽愛くんがオキの後ろに立っていて俺からオキを引き剥がしていた。 「抜け駆けは禁止だって」 「勝手に人の分まで告白しといて、あげくにキスまで奪ったのはアンタでしょうが! それこそ、抜け駆けだろ」      陽愛くんに怒られたオキが正論で言い返したが、陽愛くんはそれを聞こえない振りでやり過ごし、俺の身体を起こしてくれた。  そして、俺の顔を見つめながら真剣な様子で言った。 「でも、オキの言うとおり一つのきっかけにはなるかもしれない」 「覚悟しておいてくださいね」      これ以上、陽愛くんに言っても無駄だと判断したオキも陽愛くんに言うのは諦め、俺へと向かって言う。  よくよく考えたら、俺、この人達から恋愛感情で好きだって告白されたんだよな……そんなメンバーと一つ屋根の下で生活するって、もしかして違う意味で俺、危険なんじゃないのか?  いまさら浮かんできた疑問に俺が悩んでいると、目の前では陽愛くんとオキが俺の荷物を抱えだした。 「この荷物は雪くんの部屋に運べばいい?」 「さっさと終わらせないと、新居でゆっくり出来ないですからね」 「あ、ちょっと待って!」      そう言って俺の荷物を運び出す二人を、俺は動揺したまま慌てて追いかけた。  

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