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あいした人、あいされた人。

 「あのね、ぼく、」  好きだった。口に出すことはできなくても、ずっと昔から。気づかれなくてもよかった。そう、だから。簡潔にいえば、簡単な話で。俺の自己満足の恋に始まり、俺の自己満足な恋に終わりかけていた。  細く柔らかそうな指を気恥しそうに絡めて、視線はうろうろと忙しない。頬は赤くて林檎みたい、とか。小さくて艶のあるくちびるが、少し躊躇うように、開かれる。  は、小さく息を吐き出して。耳に掛かった髪をよけるように、指に絡ませる。耳まで赤い。元の肌が白いから、よく分かる。  「――不知火(しらぬい)先輩のこと、好きになっちゃったみたい」  ゆっくりと聞こえた。実際は、きっとそうでもない。なんてことない言葉のハズ、なのに。ちょっとだけ、泣きそうだ。そんな姿、コイツに見せることはないけど。  少し俯いて、鼻から息を出す。そのあと上を向いて、瞬きをして、やっと向き直る。困ったような笑顔で俺を見つめて、「どう、思う……?」なんて。酷い男だ。だってそんなの、俺に勝ち目なんかない。今更どうにもならない。  だからせめて、俺は。  「……いいよ。協力する。」  うん。これでいい。  せめて、コイツには優しい人でありたい。俺に用意された、唯一の逃げ道。どうかどうか、俺の自己満足な恋をした相手――暮戸実怜(くれど みさと)が幸せになれますように。  俺は、そう願うことしか出来なかった。

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