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月夜の誓い

すよすよと眠る幼子の背中をトントンしながら、そっとカーテンの向こうに視線を向ける。 薄雲の向こうの月明かりは柔らかく世界を照らしていて、明日は穏やかな一日だと教えてくれている。 『アーシャ…』 姉は、この子の成長をどれ程見ていたかっただろう。 父譲りの美しい青みがかった銀髪と、自分の瞳の色を受け継いだアレクを。 ずっとずっと、成人するまで見届けたかったに違いない。 きょうだいの中でも一番元気だったアーシャ…、アンブローシャが産後間もなく亡くなってしまうなんて、誰も予想なんか出来なかった。 あの時ほど、自分の医務官の適正が低かった事を悔やんだ出来事はない。 飛び級をして医師にさえなれていたら、アンブローシャを救えていたかも知れないのだ。 両親もリカルドも誰一人としてアルフリートを責めなかったけれど、王立アカデミーに入った目的を果たせなかった自分を、アルフリート自身が許せないでいる。 『僕は…あなたの身代わりに過ぎない…』 姉が愛した夫と子の世話を焼きながらも、彼…アルフリートは決して必要以上に踏み込まないように心がけている。 幼い頃からリカルドに淡い想いを抱き続けていることをひた隠して。 『大丈夫だよ。 どれだけ好きになっても、僕はそれを隠し続けるからね。 本好きなだけの痩せっぽちの白猫が、皆の憧れだった銀狼のリカルドに絶対釣り合いっこ無いの、ちゃあんと僕は知ってる。 安心して…。 アレクがまっすぐ成長するために、それから…リカルドが何の心配もなく仕事が出来るように。 それが僕の役割だって知ってるよ』 ダイクロイックの瞳がじわりと涙でにじむ。 日々、早世してしまった姉がどういう人であったか、大きくなっていくお腹に優しい声をかけ続けていたか。 生まれてくることを、どれだけ心待ちにしていたのか、アルフリートはアレクに教えてきた。 体はなくとも、お母さんはアレクを愛してるし、いつも見守っていてくれる。 アレクは皆の大事な宝物なのだと。 そして、毎晩幼子を寝かしつけながら、彼は切ない誓いを心に刻み続けている。 『空の上から見守っていて、アーシャ。 僕が役割を忘れてしまわないように…。 見ていてね…』 月光を受けてほんのり光る銀髪を指で梳きながら、アルフリートはゆっくりと眠りの淵に落ちていった。

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