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第8話

 翌朝。いよいよ2人が帰る日だ。 少しだけいつもより手の込んだ朝メシを作ってやる。 マサキは午後半休を取り、夕方には奥様がお迎えにいらっしゃるらしい。  4人で食卓を囲むのも、これが最後だな。 たぶんもう、二度とない。 屈託無く食べこぼす優香ちゃん、お行儀よくおしとやかに食べる愛莉ちゃんを見ていたら、なんか鼻の奥がツンとしてきた。  マサキがコーヒーを飲み終えて席を立とうとした時。 「パパ!」 愛莉ちゃんがマサキを呼び止めた。 「何」 怪訝そうな顔でマサキが動きを止める。 「あたし、ミヤビくんと結婚する!」  ハァ!? 慌ててマサキの方を見たら、マサキもハァ?って顔してる。 「お前まだ寝ぼけてんのか」 「違うよ!昨日あたし、ミヤビくんに告白したの!そしたらミヤビくん、俺も好き、可愛い、って言ってくれたもん!好き同士なら結婚できるんでしょ?」 いやいやいやいやいやいやいやいや  マサキの方、今度は見れない… 何帰る前に大爆弾落としてくれてんの! 「…バカなこと言ってんじゃねえ。話はそれだけか」 あ、この声は…ヤバい時の声。 「バカって何よ!真面目に言ってるんだから!」 愛莉ちゃん、もうやめて、ミヤビくんのライフはゼロよ… 「そんなこと、許すと思ってんのか」 うわあ。 不機嫌MAX、今まで聞いた中でも最高に最低な…。  さすが、やっぱり男親って娘のことになるとすごいんだな。 だからって、子ども相手にそこまでムキにならんでも。 そんなん言ってたこと、本人だってすぐ忘 「こいつは、誰とも結婚しねえ」 俺の腕がマサキに掴まれてた。 え、そっち?! てか、誰とも結婚しねえって断言したね?ひどくね?  マサキの大人気ない異様な圧力に負けて、愛莉ちゃんがついに折れ、プイと走って行ってしまった。 訳がわかってない優香ちゃん1人、ご機嫌にパンをかじってる。 「愛莉ちゃ」 追いかけようとする俺をマサキの腕が掴んだまま離れない。 「ちょ、愛莉ちゃんほっとくなよ」 振り払おうとする俺にマサキは 「愛莉のこと好きだって?可愛いって?」 あー、やっぱりそっちもスルーしないよね。 「そういうつもりで言ったんじゃなくって!大事な娘さんに変なこと言って申し訳」 「やっぱり若い女の方が良くなったか」 え?と目を見開くと、いつもの意地悪い笑い顔。 の中に、なんだか…いや、気のせいかな。 「そりゃフツー、枯れかけのオッサンと若い女のコなら、誰だって若い女のほう選ぶと思うけど?」 「…正論だ」 ふっ、と溜息をついて、マサキは俺の腕を放した。 「俺だって、別にオジ専じゃない、ただ」 「そろそろ出るから、続きは外で」 感情のないいつもの声で言われ、2人で玄関を出た。 「ただ、マサキが好きなだけだよ」 あれ、なんか素直に言っちゃった。 マサキもビックリした顔してる。 「ミヤビ…」 ふぁ、久しぶりに名前で呼ばれた。 このバスボイスで名前呼ばれるの、弱いんだよなぁ… キス、して欲しいなあ。 ズガン!!  勢いよく玄関のドアが開いて、ドアを背にしていたマサキの後頭部に直撃。 「パパまだいたんだ、こんなとこで何やってんの?ミヤビくん、髪結ぶの手伝ってくれない?」 愛莉ちゃんだった。 「ん、いいよ」 俺はいそいそ中に入りかけたが、 「あ、ちょっと先部屋入って待ってて」 とすぐまた外に出て、マサキを追った。  足音に気づき振り返ったマサキに 「いってらっしゃい。夜はウチ来てよ」 天使がしてくれたみたいに、チュッてした。  マサキは無言で逃げるように行ってしまった。

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